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Mar 19 2024

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アフターコロナの女性の内面をさらけ出す『Decay』発表 パフォーマー柘榴ユカの転機とこれから

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、飲食店でショーを行ってきたダンサーやパフォーマーにも多大な影響を及ぼしました。そんな中、アーティストの増田セバスチャンさんがプロデュースした東京・原宿『KAWAII MONSTER CAFE』を中心にフリーランスのパフォーマー・モデルとして活動している柘榴ユカさんが、2020年9月に自身の舞台作品『Decay』を発表。2020年12月3日には、ブラッシュアップされた『Decay #2』として再演されます。

原宿の「kawaiiカルチャー」の象徴的な存在の『6%DOKIDOKI(ロクパー)』でショップガールを務め、カラフルできらびやかな中に往年のキャバレーの雰囲気を帯びたパフォーマンスを見せていたユカさんですが、『Decay』ではアフターコロナで生きる女性の葛藤が込められているように感じます。今回、ユカさんに自身のバックボーンから、『Decay』でどのようなことを伝えたいのかお訊きしました。

--長らく『6%DOKIDOKI』のショップガールを務めていらっしゃって、原宿という街で生きてきたと思います。ユカさんにとって、原宿に興味を持ったきっかけや、ご自身にとってどんな存在なのか教えて下さい。

柘榴ユカさん(以下、ユカ):私は小中学校と東京で普通に過ごしていたのですが、その間で人と意見があまり合わずに、「それ違うんじゃない?」と思うことが結構多かったんですね。私がしゃべると「シーン」となるみたいな(笑)。だから、いじめられているわけではなかったのですが、学校が好きという感じではありませんでした。そうしているうちに、中学2年の時に雑誌の『KERA』を手に取って興味を持ちはじめて。その中の原宿のショップガイドに『6%DOKIDOKI』が載っていて、お店に行ってみて、店内にメリーゴーランドがあるというカワイイ世界観に「こんな世界があったんだ!」と衝撃を受けました。学校の中では原宿が好きな人はいなかったのですけれど、日常では出会えないような価値観を教えてくれる街で、原宿が好きな自分のことが好きになれました。

--最初はお客さんだったロクパーのショップガールになったのは?

ユカ:最初はお客さんとして通っていたのですけれど、当時ロクパーのオーナーの増田セバスチャンさんがビジュアルショーを開催するのにあたってショーガールを募集していて、学生だったのですけれど、「どうにかして関わりたい」という思いがあって応募しました。それでショーガールとして採用されたのですけれど、「もっとロクパーに関わりたい」と思って、ショーが終わった後に面接で「ショップガールになりたいです」と伝えて、なることができました。

--ユカさんにとって、ビジュアルショーへの出演も大きな転機になったのではないか、と思います。

ユカ:ビジュアルショーの時に、増田さんが「リアルに原宿に来ている普通の女の子がステージに立って表現することがすごく大事だ」と言っていて、ショーに入る前に演劇をやっていたわけではなかったので、「そういう表現方法もあるんだ」「普通の人でも、何かを表現していいんだ」というのが印象的でした。

--2015年に増田さんのニューヨークでの個展『Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-』でユカさんはパフォーマンスをされています。その経験がその後に活かされたということは?

ユカ:それまで、ショーのパフォーマンスやファッションショーで踊るといったことはありましたが、あの時は作品に対して思ったことや、インスピレーションを得て自分で表現を作ったはじめての機会なので、いま自分でショーを作るということの原点になっていますね。

--これまで、ご自身のパフォーマンスでは「バーレスク」というのがキーワードの一つになると思います。1920~30年代前後のきらびやかなショー文化を想起されますが、はじめて知ったのはいつになるのでしょう?

ユカ:2009年にロクパーのワールドツアーでパリに行った時にパリの『クレイジーホース(Crazy Horse)』というキャバレーではじめてストリップを見て、とんでもないキレイさだったんですね。女の人がキレイに見えるように、ステージをわざと小さくして、身体にフォーカスするようになっていて、表現方法がオシャレでアート的だったので、「こんなに美しいものがあるんだ」と衝撃を受け、ショーガールが好きになるきっかけとなりました。

--そのショーを見たことによって、パフォーマーにご自身がなることを意識しはじめた、ということですね。

ユカ:『クレイジーホース』のショーを見てから、「やってみたいな」ということは思い続けていました。ロクパーのショップガールとしても、自由に踊るといったステージに立つ機会はありましたが、自分の心の中の比率がだんだんとショーの方に、パフォーマー寄りにシフトしていきました。そんな中、(2015年にオープンした)『KAWAII MONSTER CAFE』のオープニングレセプションをきっかけに本格的にステージ活動をはじめました。

--「バーレスク」をテーマにした映画はハリウッド作品などでもあります。観賞されたことはありますか?

ユカ:『ムーラン・ルージュ』(2001)『シカゴ』(2002)『バーレスク』(2010)なども観ていますけれど、私は『キャバレー』(1972)のような雰囲気が好きですね。身分が高い社交場よりも、いろいろなものが渦巻いている猥雑な物の方が好き。もともとバーレスクには笑いやパロディが伝統的に入っています。そういったことを身体をもって表現するという事が好きですね。 

--ご自身の『note』では、「ショーをする上でパフォーマンス以外の事が求められている」と違和感をお書きになられていました。どういう事にそれをお感じになったのでしょう?

ユカ:ショーを作って、『KAWAII MONSTER CAFE』で演目を見て頂くうちに、ショークラブからも声がかかるようになったのですけれど、そこでは演目よりもお客さんにサービスすることを求められて、それに慣れていなくて「こんな世界があるんだ」とびっくりしました。演目を頑張るよりも、お客さんにお酒を飲ませて、チップをもらいにいくということが、他のダンサーの人に聞くと「それが当たり前」というので、「お店によって価値観が違う」ということは理解していても、やはり違和感を覚えました。自分は演目を作ってお店に持ち込んでいるという意識が強いので、演目が重要視されていない気がしました。

--新型コロナウイルスの流行で、東京都が3月に飲食店の休業要請や時短営業要請を出して、ショービズにも大きな影響があったと思います。ご自身どのようなご心境だったのでしょうか。

ユカ:3月の休業要請で『KAWAII MONSTER CAFE』のショーなども全部開催中止になって、自分の仕事はほぼないという状況でした。ですが、その間も会社員の人たちは必要な仕事をみんなやっていて、ショービズ以外の人たちは(新型コロナの中でも)だんだん社会に戻っていっているのを見て、「自分がいなくても世界が今まで通り回っている」と思って悲しくなりました。「もしかして自分の仕事はなくてもよかったんじゃないか」と感じて、「もっと直接的に人から求められる仕事をやった方がいいのかな」とも思ったり、落ち込んでしまって今までの自分を否定したような時期もありました。

--お話を伺っていて、「社会に参加していない」というのがキーポイントだと思いました。「誰か人のためになりたい」と思われるようになった理由はどこにあるのでしょう?

ユカ:ロクパーのショップガールだった時に、スタッフさんから「アートは人の心を動かして社会に作用することではじめてアートとして成立する」という言葉を聞いて、自己満足ではなく、社会を良くするためにアーティストは存在するんだと思いました。社会という大きな規模でなくても、人を動かすことに存在意義があるんだ、と。自分がやりたいことが、社会に作用できるように努力していくことが正しいんだ、と思っています。

--『Decay』はこれまでのユカさんのパフォーマンスとは違って、「女性性」と「年齢」という2つのキーとなるメッセージがあるように思います。演目を作る上でどんな想いがありましたか?

ユカ:「やろう」となって、8月前後から構想を練りはじめました。自粛に入る前までは、自分の好きなファンタジーな世界観、非現実的なものを日常に取り入れて実際に存在させるといった、かわいすぎるものを取り入れて毎日楽しく過ごすという、自分の考えの基軸になる「未来をちょっと生きやすくしたい」という思いを身体を使って表現するということで、よかったと思います。ですが、同じことをやっていても、社会や世界は変わっている。何かを表現する時は、社会とリンクしていることが大事……と考えて、今現在の社会に合わせた表現をすることが必要だと思いました。アフターコロナでは、同じことをやると自己満足で終わってしまうかもしれない。それで、前から気になっていた個人的な疑問を入れた、新しいショーを作りたいと思いました。

--『note』にはこれまでのパフォーマンスが「若い女の子だったからできた」というような記事もお書きになっていらっしゃいました。個人的には、「ユカさんでもそんな事を思うのか」と感じたのですが……。

ユカ:それは思いますよ(笑)。自分の見た目を使って表現して仕事をしていたので。やはり、「キラキラしてカワイイ」という「若さ」を見ていた人もいると思いますし、反面で甘く見られていた部分もあったと思います。私に限らず、自分自身を使って表現を見せる人は割とそういった気持ちを持っている人が多いように感じます。

--『Decay』は、華やかな雰囲気から、ダークな葛藤を内包させるようになっていく落差が印象的でした。

ユカ:見る人によって、感じ方が変わるだろうな、とは思っています。私と同じような感覚を持っている人や、同じ世代の人には「もっと重要なことは他にもあって、不安になることもあるけれど、自分も行動して考え方を変えれば、別の明るい方向が見えてきて、価値がなくなるということではなく、周りの期待や評価以外に自分で自分の価値を見つけられるといいな」という思いがあります。それを感じてほしいな、と。そういったことに全く興味がなかった人には「そういうことを感じている人がいる」ということを知ってもらえるといいな、と思います。

--いわばユカさんが新型コロナと向き合った証が『Decay』というパフォーマンス作品になったのだと思います。これからに向けて、ユカさんがどのような活動をしていきたいと考えていらっしゃるのか、教えてください。

ユカ:今は、例えばお酒が入る場所ならセクシー、コンテンポラリーなショーなら小さな劇場……といった感じで、ジャンルによって表現できるステージが比較的決まっているように思っています。ですが、ほんとうは見る人にも表現する人にもグラデーションがある。その垣根を取っ払って、いろいろな表現が存在しているということをもっと多くの人に知ってもらいたいですね。奇抜な表現もお酒が飲めるお店で見られると面白いように思いますし、ジャンルレスで出来るような場所や機会をもっと作って、同じ思想の人がもっと増えてほしい。そういう場所を作ってみたいという気持ちはあります。100人いたとして、100通りの感じ方をしているという事の方が社会は豊かになると思うので、そのために自分の出来る事をしていきたいです。

--ありがとうございました!

柘榴ユカ公演『Decay』

日程:2020年12月3日(木) 20:00-22:00
出演:柘榴ユカ
ゲスト:Coco、Rina
料金:¥2000
場所:KAWAII MONSTER CAFE
(東京都渋谷区神宮前4丁目31−10 YMスクエア 4F)
予約フォーム:
https://forms.gle/1KsnBdpGSa4Axp9X9 [リンク]

柘榴ユカ(note)
https://note.com/yukazakuro [リンク]

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記者プロフィール

ふじいりょう

乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営。ネット、メディア、カルチャー情報を中心に各媒体にいろいろ書いています。好物はホットケーキとプリンと女性ファッション誌。

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