「カワイイ」に潜むダークさとは? カルチャー季刊誌『TH』最新号のテーマは「メルヘン」
アート・文学・映画・ダンスなどのさまざまなカルチャーシーンをカバーするアトリエサード発行の季刊誌『トーキングヘッズ叢書 TH Seires』(以下『TH』)。最新号となる「No.58」では「メルヘン〜愛らしさの裏側」と題して、東京での展示の開催予定を中心にガーリーな作風のアーティストを紹介。童話に内在するダークさやシュールな一面に迫ったコラムも掲載されるなど、多角的な内容となっています。
表紙を飾るのは、2014年7月からの個展開催や4冊めのイラスト集の刊行が決定しているたまさん。「SAM SARA」(2013年)では、メリーゴーランドに乗った蝶のような羽根をもつ女の子が描かれていますが、馬と足枷で繋がれているなど、ドキリとさせられる要素が潜んでいます。
また、深瀬優子さん、黒木こずゑさん、長谷川友美さんといった独特の人物像や構図を持ち味とする作家と並び、幻想的な少女画にシュールレアリズム的なアイテムを織り交ぜているのが特徴的で、2014年5月11日まで東京・小伝馬町のみうらじろうギャラリーで個展を開いている松本潮里さんの作品を4点掲載されているのは特筆すべきでしょう。
コラムとしては、”生けるバービー”といわれたヴァレリア・ルカノワさんや、アニメ系のコスプレ・メイクが好事家の間で話題になっているアナスタシア・シパジナさんといったウクライナ美女を紹介する批評家の志賀信夫さんの一文は白眉。ここでは、来日したアナスタシアさんへの質問から『セーラームーン』の影響を詳らかにするなど、日本のサブカルチャーとの関連を指摘しています。
そのほか、梟木さんによる”「まなざし」の動物学”では、動物を主役とした映画・絵本・海外アニメを豊富に紐解きつつ、『ダンガンロンパ』のモノクマや『魔法少女まどか☆マギカ』のキュウべぇなどを例に、鑑賞される側だった動物が「まなざし」を人間に向ける側に転じていると着目。「いまは従順なマスコットを演じているあのキャラクターだって、いつ人間に牙を剥き、私たちを非難し始めないとも限らない」と書かれています。これも”カワイイ”の中には緊張関係が含まれていると理解するのには重要な論考といえるのではないでしょうか。
市川純さんによるオスカー・ワイルド評や谷崎榴美さんの魔女の箒に関する論考、そして、美術評論家・樋口ヒロユキさんの音楽ユニットSound Horizonと『ハーメルンの笛吹き男』を結びつける刺激的なコラムなども読み応えのある今号の『TH』。東京のアートシーンに留まらず、ダークな一面が内在することが指摘されるようになってきた日本の”カワイイ”カルチャーへの理解を深めるためにも格好のテキストといえそうです。価格は1500円(税込)。
TH No.58「メルヘン〜愛らしさの裏側」(アトリエサード)
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