映画『くるみ割り人形』増田セバスチャン監督インタビュー(後) 「日本のカルチャーを全て世界に見せる段階に来ている」
サンリオが1970年代に製作した人形アニメーションを3D映画として蘇らせた『くるみ割り人形』の増田セバスチャン監督インタビュー。後編では、東京国際映画祭の招待作品に選ばれ、ワールドプレミアのレッドカーペットでの反応や、海外に向けて原宿”Kawaii”カルチャーを広げる展望についてもお話し頂きました。
映画『くるみ割り人形』増田セバスチャン監督インタビュー(前) 「引き受ける時に運命だと思いました」
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--『くるみ割り人形』ですが、初監督作品にして東京国際映画祭の招待作品に選ばれて、ワールドプレミアのレッドカーペットもキティちゃんと一緒に歩かれました。率直な感想をお聞かせ頂ければと思います。
増田:初めての監督で正式な招待作品に選ばれて、歩きたくても歩けない方も多い中、大役をやらせて頂いて、人間業じゃない感じでした。自分だけの力でなくて、カルチャーを背負っていると。そういう表れなのかな、と思っていました。
--当然ながら、海外の映画関係者やメディアも多数来場していました。
増田:レッドカーペットって、距離は短いですが40分くらいかけて歩くんですね。その間に世界中から集まったメディアからのインタビューをずっと受けてました。もちろんキティちゃんのビジュアルのインパクトもあったと思うんですが、そういう意味では海外メディアの取り上げ方はすごかったです。
--日本と海外だと、捉え方に違いがあるものなのでしょうか?
増田:これは海外メディアの方に言われたのですが、これまでアニメーションやキャラクターコンテンツはやはりディズニーやドリームワークスの独占市場だったのに、サンリオがキティちゃんという強いキャラクターを引き連れて映画というエンターテイメントに、ハリウッドに乗り込んでくる、というイメージらしいんです。『くるみ割り人形』はもともと35年前の作品で、結構前から映画を作っているのですけれど、あまり知られていないようで、初めて映画産業に参入してくると捉えられているそうです。
--『くるみ割り人形』がサンリオ初の映画作品という認識なのですね。そういった中、日本発のファンタジー作品としての意味もあるのではないでしょうか。
増田:僕には海外のファンが多いので、海外に向けて絶対どうにかしたいというのがありました。でも、日本の映画製作では、どうしても国内の需要の中でどれだけ売上を上げるのかというシステムがもう構築されている。だからマンガ原作が多くなってしまうのですが、最初から見据えていない限り、グローバルなものは作れない。もっとオリジナルなものを持っていかないと、海外に太刀打ちできない。それが欠如しているのが日本の映画業界の問題の1つだったわけですが、僕のように別の業界からサッと入っていける人間ならば、最初から世界を視野に入れて作ることが出来るのかなと思います。
--この作品が、日本オリジナルだというポイントはどういったことになるのでしょうか?
増田:やはり、この映画が35年前に作られていた、ということです。こういった人形アニメーションは、制作費や労力がかかるので海外のアニメ会社がやりたくても出来なかったそうですが、真賀里文子さんをはじめ、この映画のクリエイティブには日本の風土ならではの細やかさがいかんなく発揮されていた。今回ほんとうに分かったんですけれど、それぞれのプロフェッショナルの技術は本当に高いから、国産のコンテンツもグローバル・スタンダードに沿ってやればハリウッドでもオリジナリティが認められると思います。ディズニーやハリウッド作品をありがたく見るだけでなく、せっかく日本にも素晴らしいクリエイターがたくさんいるのだから、世界を驚かせるような国産の秘密兵器をつくっていきたいですね。
--そういった”kawaii”は、日本ならではの受容のされ方が育んできたとも言えるかもしれません。
増田:海外のアニメ作品の大半は子ども向けとして作っていますが、日本のカルチャーは大らかなので、子ども向けだから大人が観てはいけない、ということはないじゃないですか? 『くるみ割り人形』も、僕自身小さい時に見たことがありましたが、実は大人に向けたメッセージだったのではないか。大人の方が理解しやすいんじゃないか、と思います。
--海外でも、キュートなキャラクターや世界観を持つアニメーションは多数あると思います。そういった作品と比較して、ご自身が指す”kawaii”には特色があるのでしょうか?
増田:”kawaii”というのは、個人的な思い入れの強いもの。今は表面的に奇抜だったりカラフルだったりするものが切り取られるけども、小さな自分だけの誰にも邪魔をされない小宇宙を創ることというのが根底にあります。それで、原宿がそういう人たちの集まる機能を果たしていて、魅力的な街になっていたんです。
--これまでも、折にふれて「”kawaii”には日本で培ってみた歴史がある」ということは繰り返し強調されてきていました。『くるみ割り人形』にもそのような側面があると思います。
増田:僕は内藤ルネさんの展覧会をやったり、日本の少女文化や原宿”kawaii”カルチャーの文脈をつなげる作業をやっていますが、そういった意味では映画というメインストリームのメディアを使って出来るというのは大きいですね。既にあった人形アニメーションに新しいクリエイションを導入して世界にアピールするというのは出発点として正しいと思っています。
--日本や原宿のカルチャーのオリジナルを示していく必要がある、ということですね。
増田:今、ケイティ・ペリーやレディ・ガガ、過去にはグウェン・ステファニーとか、トップスターが”原宿”に影響を受けているじゃないですか。彼女たちの真似をするファンの中には、カラフルなビジュアルのルーツが日本だとは知らない人も多い。だから、これが日本のオリジナリティなんですよ、と見せる時が来ているんじゃないか。2020年に東京オリンピックがありますが、そこに焦点を合わせて日本が作り上げてきたカルチャーを全部見せていく段階に来ているな、と。そうすれば、日本のカルチャーや表現、ブランド、担い手がもっと尊敬されるようになると思います。
--6%DOKIDOKIというお店や、アートディレクション、舞台、それにミュージックビデオと、さまざまな表現手段でお仕事をされている中、今回映画というメディアが加わりました。
増田:僕はいつでも、文章をビジュアルにしていると思っているのであまり違和感は有りません。映画も、舞台も、そしてアートディレクターの仕事も、メッセージを届けられる媒体です。自分が注目されたのは40歳を過ぎてからで、「外に出る」と決めたのですが、それまで原宿でやってきた蓄積があるからアウトプットができるんです。
--なるほど。今後、映画監督という立場でクリエイトしたいというお気持ちは?
増田:1対1で喋っている時は1人しか伝えられないですけれど、映画だと同時にいろいろな所で上映されて、たくさんの人にメッセージを届けることが出来るので、すごいメディアだと思います。しかも僕の場合は、文章やストーリーを追うタイプではなくて、ビジュアルでパンと見せられる、グローバルなものを作れるというのが大きい。もし今後また機会を与えていただけるのなら、これからも映画を作りたいな、という意欲はあります。次はできればオリジナルの実写に挑戦したいですね。監督も美術も両方やっちゃいそうですけど。
--今回もたくさんステキなメッセージを頂くことができました。ありがとうございました!
『くるみ割り人形』
監督:増田セバスチャン
3D監督:三田邦彦
キャスト:
有村 架純/松坂 桃李/広末 涼子/市村 正親/藤井 隆/大野 拓朗/安蘭 けい/吉田 鋼太郎/板野 友美(友情出演)/由紀 さおり(特別出演)
テーマ曲:
きゃりーぱみゅぱみゅ「おやすみ -extended mix-」
作詞・作曲・編曲・中田ヤスタカ(CAPSULE)ワーナーミュージック・ジャパン
制作プロダクション:キュー・テック
企画・制作・配給:アスミック・エース/製作:サンリオ
映画『くるみ割り人形』公式サイト
http://kurumiwari-movie.com/ [リンク]
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