日本茶アーティスト・茂木雅世が『ミスiD2017』に参戦した理由 「このままだと自分がやりたいお茶の世界ができない」
講談社主催の女の子オーディションプロジェクト『ミスiD2017』。セミファイナリスト128組(130名)には、アイドル・女優からシンガーソングライター、ジェンダーの境界線にいる男子まで、さまざまな人がノミネートしています。
そんな中、日本茶アーティストの茂木雅世さんも参戦。セミファイナリストに名を連ねています。『オタ女』では、そんな彼女にインタビューを敢行。自身の煎茶道についての想いや『ミスiD』に応募した理由など、赤裸々に語って頂きました。
ミスiD2017 No.108 茂木雅世 – YouTube
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ーー茂木さんは今回『ミスid2017』のセミファイナリストにノミネートされているわけですが、その前に「日本茶アーティスト」として活動していることからお聞きしようと思います。まずお茶に関心をもったきっかけはどのようなことになるのでしょう?
茂木雅世さん(以下、茂木):私は母との二人暮らしで育ったのですけれど、母がお花をやっていて、山口県の茶問屋のかりがね茶を急須で淹れることを小さい時からやっていて、美味しく淹れることができるとほめてもらったのが嬉しかったんですね。教育ママだったし、母子家庭だったので悲しい思い出もたくさんあるんですけれど、お茶を淹れることが唯一、褒めてもらえたことで、それが母からもらった愛情だと感じているんです。
ーー「日本茶アーティスト」としてやっていこうと思ったのは?
茂木:大人になってから一人暮らしをするようになると、お茶を飲む機会も減っていたのですが、社会に自分を順応させようと頑張って、打ちのめされ疲れた時にお茶を淹れると、幼少期のいい記憶が思い出されて、「お茶ってやっぱり記憶を連れてくるものなんだな」と思っていました。それで、25歳ごろに一度精神的に落ちた時があって、自分と対峙して心の中を整理したりとかしている時に、お茶を飲むと「私、これが美味しいから、今日1日生きていける」と泣いてしまったり、私の人生にとってその存在の大きさを感じることができたから、日本茶の仕事を始めようと思ったんです。
ーー「茶道」というのは「おもてなし」の心の文化だというのが自分の理解なのですが、「日本茶アーティスト」としては「お茶を気軽に飲んでもらおう」という活動でもあるわけですよね。
茂木:百貨店でのイベントのお仕事でお茶を淹れたりしますし、そういう場で集まってくる人にとってはお茶は身近な飲み物です。例えば「女の子がなんかお茶淹れてくれるから、飲みに行こう」という気持ちで来てくれるのも、もちろん嬉しいのですけれど、お客様から「早く淹れてよ」と言われてしまったり、意思の疎通をするところまでが、私のお茶のすべてではあっても、受け取る側がそうじゃない場面も多々あって「しんどいな」と思ったこともあるんです。
ーーおそらく、茂木さんはこれまでに「いまオススメのお茶を教えて下さい」といった質問をたくさん受けていると思います。でもその時々によっても、場所や相手によっても違ってきますよね? そういう「オススメ」をぱっと提案することへの抵抗感もあったのでは?
茂木:あります、あります。今オススメのお茶とか、一番美味しいお茶教えてくださいとか、大人なので一応答えますけれど、一番難しい。その辺も、自分の中とズレがあります。
ーーそういうお茶をカジュアルに知ってもらう活動として必要だけど、ひとりひとりと向き合えるような場を作りたいというお気持ちもあるということですよね。
茂木:そうですね。売茶翁(1675-1763)という煎茶道の中興の祖と呼ばれている人がいて、京都でお茶をやっていて、そこに文化人がどんどん集まってきているんですね。いつからか、彼にお茶を淹れたりしてもらわないと、一流の文化人ではないというふうといわれるぐらい、すごい人だったんですけれど。売茶翁の絵を伊藤若冲(1716-1800)が描いているのですが、絵を欲しがる人もいたりして、ものすごく人としても尊敬されていたわけです。そういうふうにひとりひとりと対話できるような場というのは、現状の私には無理じゃないですか。今これを、そういう仕事をやりたいって言っても、まず理解されない。「茂木雅世って誰?」という中で、そんなのは通用しないから、『ミスiD』を通して、そういうことができるような茶人になりたいと思うんですよね。
ーーつまり、『ミスiD』にノミネートすることによって、ご自身の活動の幅を広げたい、ということですね。
茂木:はい。ミスiDだったら、全部裸になって言いたいことが言えるし、自分の闇の部分にもスポットライトを当ててちょっと散らしたいなという思いもありました。だから、受けてみて、そういうことをまず発信することっていうことをしてみようと思ったんです。
ーーとはいえ、「アイドル」と見られることに抵抗はなかったのですか?
茂木:ただ、日本茶アーティストとして活動していく中で、「アイドルになりたい、ただ片手間にお茶やっている子なんでしょ」というイメージの人もいらっしゃるんですよ。それこそ「歌ってみてよ」とか。本当は期待には応えたいし、やるからにはお茶で人生を表現できるような人になりたいと思っているんですけど。人にも優しくしたいし、大きな心で寛大な心でいつもいたいし、負の部分とか闇の部分を見せずに修行僧のような心持ちでお茶を出せればいいのですけれど、思っている自分像とかけ離れている部分というのも結構あったり、このままじゃ自分の多分やりたいお茶の世界がちゃんと伝えられないままになりそうで……。
ーー想像しているよりもずっと重い気持ちを持って『ミスiD』に臨んでいることが分かりました。自己紹介のPVを撮影した時はどんな気持ちでしたか。
茂木:なんかもう、普通に喋ろうと思っていたんですけど、喋れなくなっちゃって、ボロボロ泣いて……みたいな感じでした(笑)。
ーーでも、なんだかそれも『ミスiD』っぽいですね。「わたしはこの星で生き残る。」というのが今回のキャッチコピーですが、今のエピソードとか、理想と現実の間で揺れ動いている様が、とてもアイドルっぽいと思います。
茂木:そうですか? その定義面白いですね。確かにね。
ーーでも、自分をさらけ出すって、すごい怖いじゃないですか。
茂木:怖いですね。
ーーその怖さとの勝負を、今まさにやっていらっしゃるんじゃないかな、と。
茂木:確かにそうかもです。これを言っちゃったら駄目かなとか、お茶というものに対して、みんな平和とかぬくもりとか温かみというものを求めて、私のもとに来ることが多いのに、私がそんな、すごいブラッキーだったりすると、それ人が遠ざかっていってしまうんじゃないかと思っちゃう部分がありますね。でも、裏の気持ちもどっちも私だし、どうやって自分を出していけばいいのかというのは、人から嫌われるんじゃないかと思ったりとかするし、難しいです。
ーーそういった臆病な茂木さんと、アーティストとして別の風景を見てみたいという欲望を持っている茂木さんと揺れ動くのを見れる、というのが『ミスiD』らしいというか……。
茂木:もともと『ミスiD』の知り合いとか、友達とイベントをやったことがあって、自分がモヤモヤしていることを、この世の中のどこで伝えるべきなのかなと考えたときに場所がなくて、それが『ミスiD』だった。「あそこだったらできるかもしれない」という、ほんと最後の光で。でも、まだ100%の自分を見せられていないから、どうすればいいのかな、と思っているんです。
ーーお話をお聞きしていて、お茶で表現するのは、それこそ茂木さんがお母様への想いなども含めた「情念」もその中に入ってくるのかな、と思いました。
茂木:やっぱり自分の人生と、お茶ってリンクしている部分が大きいと思っていて、私もお茶を淹れて、人と対峙して会話をすることが生業なわけだから、どういうお茶というものを淹れられるんだろうとか、その時々の自分で変わっていったりとか、見せられる部分をお話しすることって変わってきていると思うんですけど。自分自身というものが、ものすごく見えてきたり、整理してきたり、情念というか、なんか黒い影みたいなのがあるのを、昔はなんか真っ白な感じだったんだけど、そういうのもちゃんと出てきた。そういうところを隠さずに言えるように、ちょっとはなったのかなという……。それがいいことか分からないですけどね。
ーー『ミスiD』ではセミファイナリストになったわけですが、ご自身の気持ちに何か変化はありましたか?
茂木:そもそも、『ミスiD』に出て何か受賞したからって、別に何かがあるわけじゃない。でも、それよりも、エントリーしたことで、自分のことを考えたり、誰かと会いにいって、誰かと話して、自分が変わっていくというところを、多分欲していたんだと思うんですよね。きっと、自分を壊したいと思ってやっているから。グランプリはもっと若い子が多分取ったほうがいいと思いますけれど(笑)。ただ、茶人としてのカテゴリというものを、ちゃんと世間に認知されたいというのはある。今生きる場所がないから、「お茶をやってやっている女の子がいるんだ」というのを、世間的にちゃんと立ち位置が欲しいというか、まずは今までずっと理解がされないというのを、もうちょっと、自分の意志で「いや、違う。ここです」という場所を作りたいかな。
ーーつまるところ、人をどうもてなすかということを考えて実行して、なおかつ、茂木さんのお茶を楽しんでもらうというような場を増やしていくきっかけになればということですよね。
茂木:はい。私、「人のことなんか大嫌い」って言っているけど、でも本心では好きだから、例えばある人の話をちゃんと聞くとか、悩み相談つきのお茶会みたいなのをやりたいし、その人が寄り添えるお茶というのを淹れたいですよね。その人が人生でぶち当たったときに、「あ、茂木さんところに行こう」みたいな。イベントとかに来てくれて、少しでも明日を生きるのが楽しくなったと思って帰ってもらえるようなお茶も淹れたいし、そういう自分でもありたいから、お茶を通して会話をする時に、そういう存在になりたいですよね。
ーーそれにしても、情念といった話や、茂木さんのダークな部分もあるというお話、考えてみればお茶を淹れる人なりの気持ちがこもっちゃうものだし、それを飲んでいる人も自分を吐き出すというのは、自分の考えにはなかったので新鮮でした。
茂木:良かったです(笑)。なんか、ダークな部分って、不幸自慢みたいに聞こえるからヤダなと思って、言っていなかったんだけど、でも多分、基本的に真っ暗なんですよ。多分、闇を背負って生きているから、普通の人と考え方が多分あんまり合わなくて、そういうの言うと、いつまでも中二病みたいになるじゃないですか、でもほんとに、真剣に合わなすぎて悩んでいるのに言えないから、そういうのもどんどんムカついてきて、「どこで私は生きていけばいいんだろう」と思っていて。
ーーそれでも、これまでの茶人の考え方としては憤りとか、持ってはいけないものなのかもしれないですけれど、人としてはそういうふうな気持ちを持ってしまうことのほうが自然ですよね?
茂木:私、山にでもこもって、修行しようかなと思ったぐらいなんですよ。お茶を淹れている人間として、そういう負のオーラを持っちゃいけないんだろうけど、日々、街を歩いていると、負のものしかこない。それで街に出るのも嫌だし、でも外に行かないと仕事できないし、こういった感情をみんなどうしているのかなと思って。そういう小さいことからイライラが募っていますね、いつも。
ーーそれがまったく逆の方向とも見える『ミスiD』という形になったというのが面白いですね。
茂木:母が日蓮宗だったんですけど、私もその影響があって、3歳から13歳くらいまで、毎年山に登って修行していたんですよ。そのお寺の感じとか、修行した記憶があって、大人になったら「お寺の仕事したいな」とか一時期思っていて、つい固い方面に行っちゃうんですよね。「あ、私は茶人で、そういうふうに思っちゃいけないのに、負のオーラばかり持ってしまっている。これはもっと自分を鍛えなければいけない」というふうに考えちゃうことがあったから、今回、違う形で外に開放するという選択をして、戸惑っている部分も正直あるけど、ちょっとこれをきっかけに変わることができるんじゃないかなという思いもありますね。
ーー今回の『ミスiD』で茂木さんが何らかのきっかけを掴むことができるといいな、と思いました。ありがとうございました。
ミスiD 2017 セミファイナリスト 茂木雅世
https://miss-id.jp/nominee/1939 [リンク]
茂木雅世さん『Twitter』アカウント
https://twitter.com/ocharock [リンク]