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Dec 03 2020

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「圧巻の映像美と重厚な世界観に魅了された」 小説『ロメリア戦記』著者が観た『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』


興行収入16.3億円、観客動員114万人突破(2020年10月29日時点)と大ヒット作となっている『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。2020年11月13日より全国7館でアップコンバート技術「FORS EX PICTURE」と音響システム「ドルビーアトモス」を施した新作劇場用アニメーションとしては日本初となるドルビーシネマ版の公開が決定しています。

※参考記事 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』ドルビーシネマ版公開決定! 作品への深い没入感を体験出来る音響とクリアな映像
https://otajo.jp/93348 [リンク]

今回、小説『ロメリア戦記 ~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~』(ガガガブックス)の著者の有山リョウさんに鑑賞レポートをお願いしました。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』について「まったく名前も知らなかった」という有山さん、初見でどこに着目されたのでしょうか。

有山リョウ(小説家)

実はこの映画、今回のレビューの依頼があるまでろくに名前も知らず、原作小説はおろか、テレビアニメすら見ていない状況で劇場に足を運び観賞しました。
そのためヴァイオレットが主人公の名前である事、子供時代に少女兵士として従軍し、兵器として扱われていたことも知らず、さらに自分を育ててくれたギルベルト少佐との別離、両手を失い義手を装着している事、戦後は手紙の代筆を行う「自動手記人形」と呼ばれる仕事をしているといった予備知識もありませんでした。
しかし何も知らない私でも分かるように丁寧に制作されており、初見でも問題なく観ることが出来ました。

この映画の見どころとしては、やはり細部にまでこだわったアニメーションや、足音や床板の軋みまでも再現した音響でしょう。
まさに圧巻と言える映像美で、終始魅了されました。京都アニメーション入魂の作品と言える出来栄えでした。

しかし作家の端くれとして気になるのは、アニメーションよりも世界観や全体的なストーリー、何より作品を支えるテーマであり、そこに注目して観賞しました。

まず目についたのは、しっかりと作りこまれた世界観でした。
架空世界の歴史を書くということは、歴史を逆行する作業だと私は考えています。
通常の歴史はスタートから現在へと積み重ねられていきますが、小説を書く場合は、物語の舞台となる時代をまず書きます。
しかしそれだけでは世界観とは呼べず、薄っぺらい設定となってしまいます。世界に厚みを持たせるためには、舞台となる世界を成立させるための前の時代を書き、さらにその前の時代を考えるという、現在から過去を作りこんでいく手順が必要となります。
想像の範疇になってしまいますが、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は過去の歴史がよく作り込まれているように感じられ、それが重厚な世界観となっているように思えました。

次に目を引いたのが、この作品のテーマの良さでした。
戦争中に兵器として扱われていたヴァイオレットが、ドールとして手紙を代筆することで、人の心に触れ、人間としての心を学び、感じ取っていく。
手紙の代筆を依頼する依頼者のストーリーと、ヴァイオレットの成長が合わさって、実に見応えがありました。

そしてこれだけテーマがしっかりしていると、オリジナルストーリーも作りやすい。
映画を観ていて、いくつかのシーンは原作にはないオリジナルなのではないかと思うところがありましたが、他者と触れ合うことで主人公が変化し、成長するというテーマの良さがオリジナルストーリーを十分に受け止める土台となっており、映画の完成度を高めていたと思います。

特に良かったシーンは、島の灯台で電報を受け取る場面です。
ヴァイオレットがこの島に来た目的は、皆から死んだと思われていたギルベルト少佐が生きていることが判明し、彼と会うためでした。
しかしギルベルト少佐は、戦争中にヴァイオレットを道具として利用した後ろめたさから面会を拒否する。
それでもヴァイオレットは、明日もう一度会いに行こうとする。そこに、以前手紙の代筆を依頼してきた病気の依頼人が、危篤であるとの電報が舞い込む。
病気の依頼人はまだ書いていない手紙が残っており、このままでは依頼人の最後の想いが伝えられない。

この時ヴァイオレットは苦悩の末に、依頼人のために帰ることを決断するのですが、ここにヴァイオレットの成長が見て取れる。
ヴァイオレットにとって、ギルベルト少佐は特別な人間であり、人形のようなヴァイオレットが感情的になる唯一の相手であった。
もしドールとして働く前のヴァイオレットであれば、ここでギルベルト少佐に会わず帰るという選択肢は浮かんでこない。
全ての判断をギルベルト少佐に丸投げし、その指示に従っていただろう。
だがドールとして仕事をするうちに、人の想いを伝えることの意味を知り、自分の思慕や愛情よりも優先するという判断を下せるようになった。
他者に共感し理解しようとすることは、成熟した大人の行動であり、ドールの仕事がヴァイオレットを成長させたことを示す、実にいいシーンと感じました。

そして物語のラストでは、晩年にヴァイオレットの周囲では手紙を書く人が増えた、という描写がありました。おそらくヴァイオレットがその後も精力的に代筆をこなし、周囲に影響を与え、人々が想いを伝えるきっかけとなったのでしょう。

私は小説家として大事なことは、人が変化する瞬間を書くことだと考えています。劇場版が初見でしたが、ヴァイオレットが受けた他の仕事や依頼人との交流、それらのエピソードがどのようにヴァイオレットに影響を与えたのかが気になり、テレビアニメ版や原作小説を知りたくなりました。

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』大ヒット感謝PV
https://www.youtube.com/watch?v=NSIzsFOfd8M [リンク]

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』公式サイト
http://violet-evergarden.jp/ [リンク]

(c)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会


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記者プロフィール

ふじいりょう

乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営。ネット、メディア、カルチャー情報を中心に各媒体にいろいろ書いています。好物はホットケーキとプリンと女性ファッション誌。

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