一足ずつエアブラシで塗装!?作者が語る『球体関節ストッキング』ができるまで
プリントタイツや複雑な模様のストッキングで脚元のおしゃれを楽しむ女子が増えてきましたが、ブームの火付け役を果たした『球体関節ストッキング』(以下『球スト』)の人気はまだまだ健在。人形の可動する膝を表現したデザイン性とクオリティーの高さが、高校生から耽美好き女子までじわじわと浸透してきています。
そんな『球スト』の作者・上野航さんが東京・浅草橋のパラボリカ・ビスで『着る絵画』展を2013年3月1日から11日まで開催。10日には雑誌『夜想』の今野裕一編集長とのトークショーの席上、制作パフォーマンスが敢行されました。
一足一足、特殊な染料を入れたエアブラシを使って塗るという上野さん。右手でノズルをぴったりと固定し、左手で筒に入れたストッキングを回して吹きつけていきます。均一に回していかないと塗りムラができてしまうため、機械的な動作する必要があるとのこと。何回も重ね塗りをして、グラデーションで関節の部分を表現します。このような精密な作業なので、制作ペースは一日あたり十本が限界。それでも、「普通のストッキングは平面の状態でプリントしている。それが許せない」と、立体的な表現を追求します。
「線が重要。ラインが綺麗かどうか。描いているというより切り絵に近いですね」と、職人の容貌で話す上野さんのこだわりは、『球スト』を入れる封筒にも。夢野久作全集のオマージュという字体だけでなく、枠を黒くしているのは窓をイメージしているとのこと。「絵画は心の窓」という、尊敬する画家・中村宏さんの言葉へのリスペクトが込められています。
1950~60年代にルポルタージュ絵画というジャンルの第一人者となり、空を飛ぶ蒸気機関車やセーラー服少女が登場する独特の作風を確立した中村さんは、視界を歪ませる作風のことを「タブロオ(視覚)機械論」という理論で説明しています。それを専門学校時代に知った上野さんは、「洋服で使うことは出来ないか」というアイディアを思いつき、作ったのが『着る絵画』シリーズの洋服たち。
実際、展示されているセーラー服やスカートの白い線を近くで目を凝らすと、『球スト』と同じくエアブラシを使用して塗ったもの。視覚の遠近感を利用して観るものを幻惑するのは、だまし絵とも通じるところがあります。
大量生産で作られるファッションではない、「絵画」であることに強いアイデンティティを持つ上野さんの『球スト』。「人形になりたい」という密かな願望を持つ女子たちの心を掴んだ理由は、その繊細な制作過程やバックボーンにも秘められています。
現在、上野さんは『夜想』とのコラボレーションした『球スト』モデルを企画中。球体関節人形の魅力をいち早く伝えた『夜想』のエッセンスがどのように活かされるのか、更なる深化が期待できそうです。
お嬢様学校少女部 2012年度卒業記念式典『 また、明日 』(会期終了)
http://www.yaso-peyotl.com/archives/2013/03/ojogaku_mataashita.html