「僕は草の根の力を信じている」 増田セバスチャンさんロングインタビュー(2)
2014年2月27日よりニューヨークで約一ヶ月間に渡り個展を開催したアートディレクターの増田セバスチャンさんのインタビュー。2回目では現地アートシーンにインパクトを与えることに成功した作品や、個展での反響を中心にお話を伺いました。「7つの大罪」という刺激的なタイトルの意図や、オープニングをはじめとする期間中の出来事にも触れています。ファッション好きだけでなく、アートファンにとっても必見の内容です。
「ニューヨークでの個展はカケでした」 増田セバスチャンさんロングインタビュー(1) – オタ女
https://otajo.jp/39196 [リンク]
(個展撮影:GION)
――今回の作品は「7つの大罪」というタイトルで増田さんご自身の自画像を表現する、ということでしたが、このテーマを選ばれた理由を教えて下さい。
増田セバスチャンさん(以下・増田):「ソーシャル」では太刀打ちできない、「Individual」でなくてはだめだと、自己の内面を見つめた時に思い浮かんだのは、「カワイイ」というものが世の中に氾濫していまう理由の一つが自分だということ。もしかして原宿に集まる子たちは「カワイイ」があるからこそ救われるのかもしれないけれど、6%や僕が作るものがなければ社会に馴染めている子もいたのかもしれない。「カワイイ」に逃げる手立てを作ってしまった自分は最大の罪を犯してしまったのではないか、というのが今回のテーマです。
――展示では6つのゾーンに分かれていたとのことですが、7つめは観る側に投げかけた、ということなのでしょうか?
増田:ゾーンは「欲望」「未来」「妄想」「運命」「傷」「現実」の6つに分かれていて、7つ目は何なのか考えてもらう、そういう展覧会になっています。例えば「現実」は白い部分なんですね。ベッドのシーツも白い。ベッドの上に乗って見ると作品の表面の凹凸感がぜんぜん違って見える。自分もベッドの上で苦しんで、その時に観たものを表現したかったし、同じように体験して欲しかった。それで「カワイイ」を作ってしまった罪を自分にも問いかけ、それを受け手にも問いかけるというものなんです。
――まさに6%DOKIDOKIで「カワイイ」を表現し続けてこられて、来る人たちの「居場所」を作ってきた足跡そのものを世に問う、ということだったのですね。それが果たしてよかったのだろうか、と。
増田:そうですね。もしかしてそこが僕にとっての七番目の答えなのかな、と思っているんですけれど。ただ、ギャラリーの中に入って見て、すごくハッピーになる人もいるんですよ。そこに「いやいや、これはネガティブなものなんですよ」とは言いたくない。それは入った人の考え方でいいかな、と思っています。
――そこは一致しないでも構わない、と。
増田:見た人が、カラフルなおもちゃのモチーフに癒やされて楽しくなる人もいるだろうし。実際「イエーィ」みたいな反応で楽しんでいる人もいて、それはそれでOKだし素晴らしい。一方で「カワイイ」ものがたくさん並んで渦巻くと気持ち悪い、という人もいる。それは人それぞれの感覚だと思うので。でも、作品に対しての作者なりの解説なり思い入れなりを提示するのは必要だと思って、会場で解説の文章を配布しました。「見たまんま、これが僕の世界ですよ」というのもいいのかもしれないですけれど、問題を提起して、そこから読み解いて知的なキャッチボールできる人もいると思います。
――6%のショップガールのユカさんによるパフォーマンスも、解説の意味合いがあったのでしょうか。
増田:ユカはもともと、僕が以前やっていた「ヴィジュアルショー」のショーガールに応募してきた女の子で、それ以降6%のショップガールになってからも、作品のアイコンとして活動しています。ユカが真っ白な服を着て、ベットの上に横たわるというパフォーマンスだったのですけれど、僕がベッドの上で考えたことを、ユカが妄想の中で膨らましたものを再現したということですね。人間って想像力が弱くて、観ただけでは理解できないという人もいる。ユカが入ることで説明しないでも「ああ、こういうことなんだ」と分かってもらえるということもあるし、彼女が入った方が好き、と言ってくれる人もいました。
――ご自身の意図を手を尽くして説明した上で、最後は観る人に感じて考えてもらう、ということでしょうか。
増田:やっぱり受け手が入ってこそ作品が完成するんです。「はい、これがすべてです」というよりは、キャッチボールをビジュアルの力を通してできるということこそアートの力だといつも思っています。僕は美の術を追求しているわけでも、素晴らしい絵画を作ろうと思っているわけでもないんですよ。それはあくまで手段でしかなくて、時代とキャッチボールするということをしたい。そのためにアートの力を使っているだけなんです。
――ご自身がこれまでやってこられた「カラフルの反抗」というテーマをそのまま持ち込んで、蓋を開けてみれば大反響でした。
増田:ニューヨークって色のない街なんですよ。そこに色を持ってきたことからして衝撃的だったみたいです。「ニューヨークのアートの展覧会のルールをぶち壊した」とまで言われましたから。
――定形にはまらずに壁面や天井も使ったインパクトも大きかったのですね。
増田:ただ、僕はこれまで日本でやっていたことをそのまま持っていった、という感覚なんです。それがニューヨークではびっくりするようなことだったということなんですよね。現地の日本人に言われたのは、「これを日本から持ってくるというのがびっくりだ」と(笑)。それでもやっぱり大変でしたけれどね。輸入の通関があるし、雪の中の搬入したりとか…。会場で作品をかけるのも専門のアートハンドラーに頼まないといけないとか、ニューヨークのルールがあって、なかなか一筋縄ではいかなかったですね。今同じことをやらなくちゃいけないとしたらやりたくない(笑)。
――後先を考えずにやってみたことが功を奏した、と。
増田:捨て身の術でしたね(笑)。失敗するなら後悔しないように全部やろうと思っていましたから。あとは「2月にやってくれ」と言われて「やるしかないな」となって。それをやってしまえるエネルギーがあったのかな、と。勢いって作品に出ますからね。それがよかったのだと思います。
――レセプションには、約1000人以上もの人が集まったそうですね。
増田:特に美術雑誌で告知しているわけではなく、『Facebook』のページしかなかったので、本当に人が来るのか3日前まで不安でした。それでも、口コミで広がってコメント欄でやりとりが始まっているのを見て、「どうやらたくさん来るぞ」ということになって。急遽スタッフを増やして、展示会場は5人入るといっぱいというところだったので、隣の倉庫を借りてレセプションの会場にしたんですけれど。その日は極寒だったのに1000人も並んで、2時間くらい待たないと入れないという状態でした。
――初の個展としては異例ともいえるのでは。
増田:「このような熱を帯びた展覧会はここ最近見たことがない」とは言われましたね。ニューヨークって1950・60年代から建物が変わらないので、例えば有名なジョン&ヨーコのベッドインのイベントもこういった小さなところでやっていて、そこにわんさか人が来たわけです。そういった70年代の空気感がありました。しかも、アート関係者はもちろん来るんですけれど、ファッションの人たちも来るは、一般の人も「何をやっているんだろう?」と来てくれて、こういった熱を起こすアーティストがいなかった、と言われました。
――「Individual」をテーマにして、期せずして「ソーシャル」な反応を巻き起こしたわけですね。『New York Art Beat』でも1位を獲得して、現地メディアからも注目されたのではと思います。
増田:CBSやHuffington Post、ファッション系…さまざまなメディアの取材を受けました。ディベートみたいなインタビューもありましたね(笑)。それでも、意外とみんな自分の色がオリジナルだと理解してくれていて。今、きゃりーをはじめとして、ニッキー・ミナージュやケイティ・ペリーのMVみたいなエンターテイメントにも原宿のカワイイの断片が入っていますが、アメリカではこれがどういう文脈で来ているのか分からなくてみんな引っかかっていた。それで「あなたから来ていたのがよくわかった」と腑に落ちたみたいで。「やっとあなたをアメリカに紹介する機会が来ました」と言ってくれる人もいてびっくりしましたね。
――オリジナルとしてリスペクトされたわけですね。
増田:あと面白かったのは「セバスチャンの作品はクローンを作る。そして彼らはどんどん増えていく」と言われたことですね。ファッションでも、とにかく街にクローンを作って世界中に飛び火する、と。今回写真撮影をOKにしたのですけれど、ふつうは著作を守るわけです。それなのにコピーされるのをむしろよしとする、といわれて。自分ではそういうことを意識したことがないのですけれど、外からそういうふうに評価されるのは面白かったですね。
――大きな美術館の展示でも撮影禁止にしていることが通常な中、そこでもルールとは違ったアプローチをしたと。
増田:僕は草の根の力を信じているので。それで『Facebook』や『Instagram』でどんどん僕の写った写真も投稿してもらって。それも個展の熱につながりました。でも、僕の作品は、カメラでは捉えきれないという自信もありました。あの入った感じはカメラでは撮れない。あともう一つ、個展開催中に大きな事件があって。
――どういったことでしょう?
増田:現代美術家の蔡國強さんとの出会いですね。彼はニューヨークを拠点に社会派な作品を発表していますが、2013年12月の京都で開催された東アジア共生会議のレセプションでお会いしていたんです。その時僕の講義にも来てくれて、「ニューヨークに来たら連絡して」と言ってくれたんですけれど。その彼が自ら個展のオープニングに足を運んでくれたんですね。新人アーティストの初個展にこれほどの大物アーティストが来るということはアートシーンの常識ではまずあり得ないので、騒然となって。僕を含めてみんなびっくりしていました。
――『Instagram』で蔡さんとのツーショットがものすごい勢いで拡散されてました。
増田:蔡さんが来てくれて、ファッションではなくアートのムーブメントとして成立したということはありますね。彼のギャラリーにも行ったんですけれど、滞在の最後の日には自宅に招かれて、ニューヨークでアーティストとして生きていくためのアドバイスもしてくれて。「協力するから、ニューヨークからデビューしなさい」と。僕は43歳で、もう変わることがないと思っていたけれど、久しぶりに影響を受けましたね。
――アートの中心地だからこその出会いですね。
増田:ニューヨークって何かが起こるんですよ。実力さえあれば、ぽんと反応があるのがアメリカっぽくて面白いと思いました。蔡さんは「一緒にやりたいことがある」とも言ってくれているし、今後一緒に何かやることになると思います。
(以下、「3」 https://otajo.jp/39218 に続く)
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