「時代を動かすものを、アートの力を使って発信する」 増田セバスチャンさんロングインタビュー(3)
原宿“kawaii”カルチャーを牽引してきた自身を問う作品をニューヨークの個展に持ち込み、アートシーンからも高い評価を得た増田セバスチャンさんのインタビュー。最終回となる今回は、個展の反響を受けたアーティストとしての今後の展望を中心にお聞きしています。「展覧会をしばらくは日本でやるつもりはない」と断言する増田さん。その真意についても包み隠さずお話しして頂きました。
「ニューヨークでの個展はカケでした」 増田セバスチャンさんロングインタビュー(1) – オタ女
https://otajo.jp/39196 [リンク]
「僕は草の根の力を信じている」 増田セバスチャンさんロングインタビュー(2) – オタ女
https://otajo.jp/39210 [リンク]
(個展撮影:GION)
――個展は大成功といえる反響で、デビュー戦としては申し分なかったのではないかと思います。そこで、これからどのような展開を考えていらっしゃるのでしょう?
増田セバスチャンさん(以下・増田):ある人に言われたのは「あなたには今2つの道ができた」と。作品を売って、自分の価値を上げていって、ギャラリーと提携してステイタスを上げる道。もうひとつは、カラフルなものをテーマに、その力を使って時代を動かす道。このどちらを取るのか、と。
――前者は、ニューヨークに限らずアート界全体がそのように動いていますよね。
増田:ニューヨークのアート関係者やコレクターは、作品の値段がいくらになるとか、これから価値がどれだけ上がるかとか、そういったことに終始していた。でもアートは本来時代を突き動かす力がある。今回、そういう事とは関係なく、ファッションの人も経済界の人も一般の人も集まってきて、こういう熱を起こせるアーティストは久しくなかった、という評価を受けたわけです。この先も大きな展覧会があって、これで終わらないと思うんです。その時どの選択を取るのか、反応を踏まえて考えなければいけない。そういうところに来ています。
――今回の展示は巡回することになるのでしょうか?
増田:いくつか話は来ていて、次はマイアミの美術館でやることになります。その後もいろいろな場所からお誘いを頂いています。ただ、おそらくこの作品は日本には戻ってこない。展覧会自体もしばらくは日本でやるつもりはないです。
――日本でも見たいという要望は沢山ありそうですが、敢えてやらない、と。
増田:日本でやる意味を見出だせないんですよね。最初にも言ったように、日本ならばデパートとか大きな規模で展示が出来ただろうけれど、それを自分でやると人気が出たアートディレクターの自己顕示みたいで。ただ、半年前はニューヨークで個展ができるとは思っていなかったですからね。日本でやるんだったらめっちゃハードル高くしようかな、山の中とか(笑)。
――それはそれで面白そうです(笑)。日本とニューヨークでは展示する意味合いが違うというお話でしたが、それは既に原宿で19年間続けてきた6%DOKIDOKIがある、ということもあるのでしょうか?
増田:僕がアートディレクターとして注目されたのは東日本震災以降のここ2、3年。最近は6%のことを「セバスチャンさんのブランドなんだ!?」と言われるので、そこが面白いですよね。むしろショップがずっと歴史があって、ポッと出のアートディレクターが開いた最近のお店では決してないということなんです。
――これから、アートディレクターとしてのお仕事のアプローチがどのようになっていくのかも気になります。
増田:もちろんクライアントワークも100%で応えたい。クライアントにも、それを通した向こう側にいるお客さんにも喜んでもらいたい。それがすべてです。アーティストとしては、自分の内面をさらけだして、時代を動かすものを、アートの力を使って発信する。それには誰も僕のことを束縛できるものではなく、自分の中の領域としてあります。ただ、僕は聞きわけがいいので、クライアントからの提案を「いや、それは違う」とかはいわないです(笑)。だからアートディレクターとしてバランスが取れていると思いますし、クライアントからの評判もいいんです(笑)。
――アートディレクターとしてのお仕事も、アーティストとしての作品も、「カワイイ」の本質を問うということだと思うのですが、それが流行している「カワイイ」とズレていってしまうことはないのでしょうか?
増田:単純に「カワイイ」を楽しんでいる人がいて、それがメインストリームですよね。それでもいいんじゃないですか。ただ、僕は「カワイイ」には文脈があって成り立っているということが言いたいだけなんです。
――2012年に内藤ルネの展覧会のディレクションを手がけていた時も、「カワイイ」のルーツを探るというコンセプトでした。
増田:アメリカなんかでも、端的にいうと日本のキャラクターはミッキーマウスの真似と見られているので、そうじゃないんだ、と分かって欲しい。だから僕がカワイイというものが一般と離れていっても構わないんです。僕も43歳なので、おそらくこの先何も変わらない。だからみんなが変わっていったという感覚なんです。僕を必要としないならそれはそれでいいという気がします。
――日本オリジナルの「カワイイ」が、原宿のストリートに根付いてきた文脈をショップで体現されているからこそ、若い人に届いているのだと思います。アーティストとしてそのメッセージを、どのように伝えていきたいのでしょう?
増田:やっぱり、現代社会において置き去りにしてきてしまったものが多いと思うんです。脳科学者の茂木健一郎さんとお会いした際に「子どもの時の脳がいちばん完成形で、大人になるにつれ劣化していく」と話されていて。子どもの頃に見えていた色彩はもっと多かったはずだし、流れる時間も長かったのに、大人になってだんだん保守的になって、余計なものをそぎ落としてシンプルに近づいていく。それは、脳が劣化して生きる人生もショボくなっているのでは、と。どんどん自分を縮小させて窮屈にしてしまっていますよね。
――可能性を狭めている、と。もしかして、そういった窮屈さを自覚していないのかもしれませんね。
増田:あとは、僕を支持してくれている若い世代の力がまとまって、無視できなくなる時がやって来ると思います。僕はきゃりーのPVで注目されたのかもしれませんが、昔からやってきたわけです。言い換えればきゃりーもそうだし、下の世代がそれを先に気づいたんです。それを上の世代も気づいて欲しいです。
――6%DOKIDOKIにおける「革命」にも通底している想いですね。若い世代のパワーが集まる契機にもなっているように思います。
増田:だから、希望を含めていうと「未来はカラフル」と思っていて、みんなもっともっとハッピーで楽しい生活を送って欲しい。それが僕のメッセージです。僕の作るものを見て、「派手なのが原宿なんでしょ」とか「子供っぽい」とかいう人ほど見て欲しい。逆に僕と論争できるならしてほしいです。
――今回の個展の合間には、アメリカ現地の大学でも講義をされています。そこでも若い世代を中心に沢山の人が集まったと聞いています。
増田:Japan Foundation(国際交流基金)がまとめてくれて、東部南部でスケジュールの合うところを回りました。日本総領事館によると、そんなに人が集まらないことも多いとのことですが、どこも100から200人くらい来てくれて。大学の教授が「見に行くといい」と勧めてくれることもあったようです。僕はこういう活動を一種の社会貢献だと思っていて、自分の言葉を使って日本から出たオリジナルの原宿kawaiiカルチャーを世界に広めていくということをこれまでもやってきた。今後もチャンスがあればやりましょう、ということになると思います。
――そこでもジャパンカルチャーへの関心が高まっていると感じることがありましたか?
増田:実際、認知が高まっているというのはもちろんですが、個展を含めて告知をしたのは『Facebook』だけですから。先ほどのように美大の先生によって「行くといいよ」と言われたから来たとか、口コミのパワーがすごいです。それから、実際に足を運ぶにはもう一つの理由が必要で、「セバスチャンに会いたい」ということがあったのではないか、とも思うんです。
――それは増田さんご自身が「アーティスト」だと既に認められている証左だとも思います。
増田:向こうではアーティストは唯一無二の存在で、社会全体で支えていかなければいけない存在としてリスペクトされています。お金持ちにしてみればお金はいくらでも稼げるというんです。でもアーティストにはなれない、と。それで蔡(國強)さんのようなアーティストを支援することにより、自分の価値を上げることができる。根本的に日本とはアーティストのステイタスが違いますよね。クリエイトできる人がすごいんだという認識が日本にももっとあればいいんですけれどね。
――それも日本で展示をする意味が見いだせないという理由になるのでしょうか。
増田:ニューヨークで個展をした前と後では、取り巻く環境が変わったと僕自身は実感しているけれど、日本では何も変わってない。もちろんそれはこれから説明したり、変えていく必要があるんですけれど、今は日本に戻ってきてギャップがありますね。『New York Art Beat』の人気の展覧会で一位になって、メディアに取り上げられても、日本のアート関係者からは蔡さんとのツーショットがネットに出て少し「あれ?」という感じになりましたけれどほぼ無反応です。それでも、現代アートの中心のニューヨークでの反応が大きければ、ゆくゆくは日本も変えることができると思うんです。
――アート好きの日本人としては少し残念です。それでも、増田さんの「革命」がほんとうにスタートしたんだ、ということを直接お聞きして実感できました。
増田:個展がオープンするまで、本当に死ぬ気でやったんですよ。それがオープンして一息ついたのに、みんなの反応を見てここからが始まりだったんだと気づいたんです。それで「やべー」と思って(笑)。いつまでもクライアントワークで得た資金をつぎ込んでいくわけにもいかないし、作家として経営的にどう回していくのかも課題ですね。今回も移動ばかりで休みゼロでしたが、「もう始まっちゃった」ので。
――日本で生の声をお聞かせ頂けて光栄でした。ありがとうございました!
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