【シネマ部】ドラマに映画 アメリカで続く“ヴァンパイアブーム” アメリカ人が熱狂するわけは?
近年、アメリカでは“空前のヴァンパイア・ブーム”。海外ドラマ『トゥルーブラッド』の放送が始まり、『トワイライト~初恋~』が公開された2008年以降、ヴァンパイア作品の製作やヒットが相次いでいます。ドラマ『ヴァンパイア・ダイアリーズ』は第5シーズンまで制作されるほど人気。しかし、アメリカにおけるヴァンパイア人気は最近に限った話ではないのです。
アイルランドの作家ブラム・ストーカーが1897年に出版した怪奇小説『吸血鬼ドラキュラ』は、1920年代にロンドンで舞台化。その後、海を渡ってニューヨークで上演され、30年代にはハリウッドで映画に。60年代以降、ドラキュラやヴァンパイアが登場するテレビシリーズが数多く作られ、70~80年代にはコミックやアニメ、 ゲームも出現。ヴァンパイアは100年近くもアメリカのエンタメ界に欠かせないキャラクターとなっています。
「ヴァンパイア」がアメリカ人を魅了するワケとは?
いにしえのヴァンパイアが醸し出す、ある種の「カビ臭さ」は“かぐわしい歴史の香り”。彼らが“古くからの文化・伝説に基づく特別な存在”であることも、アメリカ人を惹きつける要因でしょう。
王族・貴族のいない国ほど、憧れや興味は強いという話もありますが、アメリカも例外ではありません。アメリカ人は英国王室の話題が大好き。ニュースやゴシップ誌での扱われ方を見ても、むしろイギリス人より熱狂している印象。
入植から394年、建国して238年。いまや超大国の地位を築き上げたアメリカですが、歴史だけはまだ手に入れていません。そのためか「代々続く名家」や「由緒正しい王家」など、長い歴史や伝統を感じさせるものに憧れやすい傾向があるのかも。B・ストーカーが東欧の伝説と歴史上の人物をミックスして作り上げたドラキュラ伯爵は、トランシルバニアの貴族。そのモデル・ヴラド3世は中世ワラキア公国の君主でした。
日本でもファンの多い映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)は、ヴィクトリア朝テイストのヒラヒラ衣服をまとった王子様風ルックスのヴァンパイアが反響を呼び、海外ドラマシリーズ『オリジナルズ』は10世紀に誕生した最古のヴァンパイア一族が主役。1000年以上も吸血鬼として生き続け、人類史上最強の種族といわれるマイケルソン兄妹は、まさにヴァンパイア界の「ロイヤルファミリー」です。
イマドキのヴァンパイアは【若い+美形+セクシー】
「永遠の若さと命」を持つヴァンパイアは、アンチエイジングやフィットネスに余念がない多くのアメリカ人にとってうらやましい限り。不死身なので健康や寿命に気を遣う必要がないし、「老い」「病気」「将来」の不安もありません。
そして彼らの「首筋に牙をたてて血を吸う」という行為自体、かなりセクシュアル。魂がないから肉体的欲望に正直で、常に渇きを満たそうとします。「誰よりも強くて凶暴、でも愛する者には優しくて一途」というギャップと「いつこっちが襲われて殺されても不思議じゃない」というスリルも刺激的で、そこが人々をますます夢中にさせる魅力なのです。
ヴァンパイアは「究極に理想的な存在」
いつまでも若く美しく、背徳的な色気と危険な香りを漂わせた“究極に理想的な存在”。それがアメリカ人にとってのヴァンパイアであり、彼らに魅せられる最大の理由かもしれません。不老不死はヴァンパイアの強み。ですが、それは「愛した者を喪う哀しみを何度も味わい、永遠に孤独にさいなまれる」ことと等しくもあります。キリスト教世界では「死後、贖罪を受ければ罪が赦される」と考えられていますが、死んで天国に行けないヴァンパイアが救われることはないのです。
終わりのない孤独と救済のない苦しみを抱える悲劇のアンチヒーロー=「ヴァンパイア」――そんな彼らに、アメリカ人ならずとも魅力を感じずにはいられないはず。誰もが持っているタブーや悲劇的なものに惹かれる気持ちをくすぐり続けてきます。
『ヴァンパイア・ダイアリーズ』のスピンオフ作品
『オリジナルズ』<ファースト・シーズン>11月12日よりレンタル開始
コンプリートボックスも11月26日にリリース!