キャプションなし・非日本語対応なし…… 大人気『蒼樹うめ展』の問題点とは
2007年にアニメ化された代表作『ひだまりスケッチ』や、『魔法少女まどか☆マギカ』のキャラクター原案などで人気の漫画家・イラストレーター蒼樹うめさんの作品を網羅的に紹介する『蒼樹うめ展』が、2015年10月3日から12日まで東京・上野の森美術館で開催中。作品の人気も相まって、連日開館前に行列ができ、物販でも完売が続出するといった加熱ぶりを見せています。
※参考 30代後半、『蒼樹うめ展』敗残者のつぶやき(ガジェット通信)
http://getnews.jp/archives/1186058 [リンク]
そんな中、同展を鑑賞した未識魚名義でイラストレーターとしても活動している日本映画大学映画学部准教授の中川譲氏が『Twitter』で「美術展としてはヤバい出来だと思った」と投稿。同展の問題点を指摘しています。
「ひだまりスケッチ1巻初版くらいからの蒼樹うめファン」という中川氏は、原本のないデジタルの絵を展示するにあたって、蒼樹さんの手描きの作品解説を入れるという方法を採用していたことを「巧みだった」と評価。一方で、制作年や発表年、素材のキャプションがなかったこと、幼児期のお絵描き作品で絵で使われている茶色のクレヨンが額部分の紙に移って汚れていたこと、非日本語話者への配慮が全く無かったことを問題視。「美術館という場所を使って物販したいだけなのか」と批判しています。
額装はちょっと安っぽい気もするがポップなうめてんてーとは合ってるのかもしれん。ただ展示として「アウト」だと思ったのは、制作年も発表年も素材もキャプションになかったこと。図録には発表年が入っているので、純粋に「展示の質」への意識の問題。 pic.twitter.com/fEChew3lF1
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
個人的にさらにアウトだと思ったのは、うめてんてーの人生を振り返るということで幼児期のお絵描き作品なんかもあったんだけど、恐らくその額装の途中の作業で、絵で使われている茶色のクレヨンが額部分の紙に移って汚れていたこと。絵画作品として価値ないとはいえ、オマエそらアカンだろ。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
他にもダメだと思ったのは、上野の森美術館という館海外からの観光客も多いエリアで、実際私も海外からの観覧者を何組かみかけるくらいの状態であったのにも関わらず、展示には非日本語話者への配慮が全く無かった(作品のローマ字表記すら一切無し)という状態だったこと。これもアカンわな。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
で、最高に「このキュレーターバカじゃねーの」と思ったのは、「蒼樹うめ」という作家を、マンガなりポップカルチャーなりデザインなり何なりというフィールドでどう考えれば良いのかについて、展示を通して何の提案も行われていなかったこと。美術館という場所を使って物販したいだけなのかと。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
さらに中川氏は、完成品たるコミックスやグッズの展示がなく「これでは作家の意図は伝わらない」とツイート。美術史・マンガ史・大衆文化史等の中に位置づける努力が見られなかったことを指摘し、「美術館」を名乗る責任について言及しています。
上野の森美術館では、『井上雄彦 最後のマンガ展』『ヱヴァンゲリヲンと日本刀展』『メカニックデザイナー 大河原邦男展』など、近年アニメ・漫画関連の展示が多く開催されています。いずれも来場者数は盛況で「成功」とされていますが、ファンビジネスの中でどのように作品を「アート」の文脈で位置づけることができるのか、その展示の質が問われていくことになるのではないでしょうか。
※参考 http://togetter.com/li/883991 [リンク]
※画像は『蒼樹うめ展』公式サイトより http://www.umeten.jp/ [リンク]