ケータリング専門からカレー屋さんへ 京都の有名カレー店、森林食堂のこれまでとこれから
お店を切り盛りする今中さん(右)と堀さん(左)。ふたりの写真をくださーいとカメラを構えると、日本酒の一升瓶と猫型鉢植えのサボテンで構えてくれました。これでも本日はカレー屋さんの紹介です。
京都のカレー屋といえば……
この問いに対して「森林食堂」と答える京都在住者はきっと少なくないはず。ケータリングを専門に約7年活動したのち、満を持する形でお店をオープンさせて早3年。
京都を代表するカレー屋としてその名を馳せながら、現在でもケータリングで精力的に全国各地を飛び回っている森林食堂。来年の春で開店4年目を迎えるオーナー夫婦に、これまでのこと、そしてこれからのことを聞いてきました。
お店へのアクセスから。まずはJR「二条駅」の西側の出口を出て、北西に進む。二条駅はJR京都駅から嵯峨野線で2駅の距離。
御池通と七本松通の交差点、信号を渡り、七本松通を北上する。暗くて静かな住宅街だが5分ほど歩くと、夜風に乗ってかぐわしいスパイスの香りがただよってくるはず。
民家の間に挟まれるようにしてともる、オレンジ色の明かり。こちらが「森林食堂」です。森林食堂の玄関はドアがなく、店外と店内をまたぐように無数の植物が置かれていて、まるでジャングルの中の秘密基地みたいです。
出迎えてくれたのは調理担当の今中さん。パートナーの堀さんはこのとき外出中。
入り口入ってすぐはカウンター席。頭上にはドライ植物がたくさん吊り下がっています。
カウンター後ろの棚には、陶芸家の方がつくったという「さぼにゃん」が展示&販売。めちゃんこカワイイです。
壁には短冊形のメニューがズラリ。季節の食材を使ったカレーのほかに、お酒も豊富に揃っています。この日も、常連のお客さんたちがカレーを食べ終わったあとにゆっくりと晩酌を楽しんでいました。
わたしもビールを飲みながら撮影します。
サッポロラガー中瓶(550円)。
口が幸せ! おまちかねのカレー
マトンライス&長期熟成鶏チキンカレー(1,300円)。
おすすめのメニューをうかがったところ、「新作はどうですか?」と今中さん。
やってきたのは米の上にマトンが敷かれ、大きな手羽元がゴロリと入ったカレーです。さらに山盛りのパクチーと角切りのトマト、付け合わせのアチャールとチャパティが。色鮮やかな一品で、視界からも空腹を刺激してくれます。さっそくいただきましょう!
てっきりマトンライスは、上にマトンが乗っているだけかと思ったんですが……
いる〜! 羊がいっぱいいる〜!
なんということでしょう。お米の中に、マトンがたっぷり混ぜ込まれています。さらに甘いたまねぎと、万願寺唐辛子のシャキシャキした歯ごたえがよいアクセントに。マトンライス単体でしっかり味つけがされているので、パクチーやトマトを混ぜ込みながら食べると超絶美味。
また唐辛子が入っていたのですが、辛さは全くありませんでした。香ばしさと、ピーマン系の甘さが噛むたびにじんわり広がって、マトンとの相性抜群です。マトンライスを食べるときは、唐辛子はのけずに食べましょう!
付け合わせのパパド(薄焼きせんべい)。カレーに浸けて食べてもいいですし、砕いて食感のアクセントにするのもおいしい。
熟成鶏のチキンカレーは、スパイスの香りはしっかりしつつも、味わいは家カレーのようなまろやかさ。ホロホロに煮込まれた手羽元をほぐしながら、マトンライスに絡めてがっつきます。
マトンライス単品、マトンライス&チキンカレー、そこにパクチーやアチャールなどの付け合わせを加えていくと、味のバリエーションは無限大。カレーの波状攻撃に口の中が幸せいっぱいです。ありがてぇ! ありがてぇ!
「これカツオちゃんが持ってきてくれたクッキーなんで、つまんでくださいね〜」と今中さん。カツオちゃんとは以前コチラで紹介したチクリカツオさんのこと。京都はヨコの繋がりが密接で世間がかなり狭い街。なんなら常連さんも会ったことのある方でした。
新聞のキリヌキからはじまったカレー屋への道
常連さんと談笑する今中さん。
──そもそも、カレー屋さんをはじめるきっかけって何だったんですか?
今中さん:最初は、堀の企画するイベントでカレーをつくったことがきっかけです。当時は私が大学院生で、堀はすでに卒業して会社員をしてた頃かな。「インド人がつくるインドカレー」っていう京都新聞に載ってたレシピのキリヌキを使ってカレーをつくりました(笑)。
──森林食堂のルーツは京都新聞やったんか……。
今中さん:そうなんですよ〜。その後は紆余曲折あったんですが、イベントごとにカレーをつくる感じになりました。私と堀は大学の軽音楽部だったんですが、自分のバンドをやりながらリハーサル中に仕込んだカレーをあっためて……みたいな(笑)。
この少し前にお店に戻ってきた、仕込み担当の堀さんが厨房にやってきました。常連さんと一緒に、思い出話に花が咲きます。
今中さん:で、私も卒業して会社員をしてたんですが、休日にはいろんなイベントでカレーをつくって……という生活を続けてきました。
堀さん:音楽関係のイベントだけではなくて、結婚式や他府県へ遠方の出張など、ケータリングの幅が広がっていきました。大学のオープンキャンパスへ出店したり、最近では映画撮影の現場へのケータリングなんかもしました。
約7年のケータリングを経て、いよいよ出店
──お店を出すことになったきっかけは何だったんですか?
今中さん:当時わたしが前職を辞めて、どうしようかなと考えていたタイミングで。堀から「お店をはじめるからやってよ」と言われて、「よし! やろう! と」。
堀さん:その時期にはケータリングの規模も大きくなって、300人前とか、大量のカレーを仕込まなきゃいけなくなってきてた。マンションの一般的な台所では、まかないきれなくて(笑)。なのでお店は厨房重視。立地は気にせずにここにお店を構えました。
──めちゃくちゃ住宅街ですもんね。でもひっきりなしにお客さんがきてるってスゴイ。
森林食堂のカレーの魅力
カウンターに貼り付けられていたメニュー表。各カレーはお皿のまんなかにお米を挟んで、合いがけオーダーが可能です。
──森林食堂のカレーって、スパイスカレーなのにいい意味でエキゾチックさがないんですよね。そこが魅力というか。
堀さん:うちのコンセプトは「インドと日本の間」くらいなんです。theカレー屋、というよりは毎日食べられるカレーにしたかった。
──たしかにつくり込まれた味ではあるのに家っぽさがある。あと、けっこうジビエのメニューが多いじゃないですか。
今中さん:わたしの実家が奈良の山奥なんですけど、そこではジビエ食が当たり前に家庭に浸透してたんです。なので、あえてのジビエって感じではなかったですね。これが普通。
──今日いただいたマトンライスなんかも、羊の風味がガッツリ効いていて、マトン好きにはたまらない味です。
ふたりの写真を撮っていると「ちゃんと笑顔で前向かなきゃ! ね、堀ちゃん」と今中さんのディレクション。
ことあるごとに「ね、堀ちゃん」と確認するハツラツとした今中さんに、穏やかな堀さん。このふたりの距離感が愛らしくて心地よい。
開店3周年を経て、これからの森林食堂
──いま3周年目ですよね。ケータリングだけの期間を含めると10年目。ひとつの大台を超えて、来春で4年目を迎えるにあたって何か目標のようなものはありますか?
堀さん:ずっとレトルトカレーをつくりたいな、と思っていたんですが、まだ達成できていないので、4周年こそはレトルトカレーをやりたいなと。
──森林食堂が家でも楽しめる日が。それは楽しみすぎる。
妖精ちっさいおっさん、ではなく、ちっさい堀さんがカウンターに。お店には動物の置物や絵などが無造作に飾られています。
堀さん:それとビーフカレー。牛肉のカレーが、なぜかつくっても味がイマイチで(笑)。だからメニューにないんですよ。今度こそおいしいビーフカレーをメニューに加えたいです。
今中さん:あとサボテンを売りたい(笑)。
──サボテン(笑)。それってやっぱり植物好きだからですか?
今中さん:もともとは植物好きじゃなかったんですよ。ケータリング専門時代は「ジャングル食堂」という名前で活動してて、お店をはじめるにあたって「森林」に改名したんですけど。
──植物、関係なかったんだ!?
堀さん:でも開店してから、いろんな方が店名にちなんで植物をくれたんです。そのおかげで今では植物が好きになったので、サボテンを育てて売ることができたらいいなと。
最後の最後、カレーの話ちゃう! ……というツッコミも楽しい森林食堂。今日もお店で、各地のイベント会場で、多くの人々に絶品カレーを提供しています。4年目も、10年目も20年目も、こうしておいしいカレーを食べることができたらいいなぁ。
堀さん&今中さんどうもありがとうございました!
お店情報
森林食堂
住所:京都府京都市中京区西ノ京内畑町24−4
電話番号:075-202-6665
営業時間:11:30〜22:00(ケータリングなどで変動する可能性があるので、HPを要確認)
定休日:6の倍数日(6,12,18,24,30)
書いた人:
平山(おかん)
京都在住。編集者/ライター/たまにイラストレーター。阪神間の酒場をうろつく酒好き。大学時代のあだ名「おかん」がいまや通称に。趣味は料理とアジア旅行。