東京のカフェに飽きたあなたへ。軽井沢にある築百年のカフェは、流れる時間が超上質だった。
軽井沢というと、高級別荘地という印象が強いですね。別荘地としての歴史が始まったのは明治20年頃と言われています。
今回訪れるカフェは大正9年、とある実業家によって建てられた邸宅を改修したものです。
北軽井沢、ナラの森のなかで過ごすカフェタイムは、東京のそれとはまったくの別物でした。
ここに建てる!? 実業家が求めた静かすぎる環境
軽井沢駅でレンタカーを借りて約40分。「LUOMUの森」という静かな森のなかに洋館カフェはあります。
40分のドライブ、東京では「集中する時間」ですが、軽井沢のドライブは風が気持ちよく、穏やかな時間でした。
ゲートをくぐると……。巨大なツリーハウスが。これは目的のカフェではありません。
これはこれですごいのですが、さすがに実業家の邸宅ではありませんね。
森の木をそのまま使ったアトラクションがありました。
夏に向けての練習でしょうか、指導員さんが遊具の使いかたを案内する練習をしていました。
これは大人でもときめけそうな設備ですね。
高所が苦手な人はこちらのトランポリンをどうぞ。
これらの施設の中央にでーーんと構えるこの建物こそ、実業家の邸宅をリノベーションしたカフェ「百年の洋館」です。入り口から少し冒険したような感覚ですが、実際歩いて1分もかかりません。
写真を見て感じるでしょうか。この静かな環境、清涼な空気を。実業家が邸宅を立てるに相応しすぎる環境と言えましょう。
百年の歴史が詰まった洋館を歩く
近づいて見てみると……。大正時代に建てられた邸宅とは思えません。すごくきれいな外観です。
建物には煙突も備え付けてあります(写真右)。建設当時は、今のようにエアコンもない時代。家のなかで暖炉に使うために取り付けたのでしょう。
玄関を入るとすぐ、カフェのテーブル席が並びます。全22席です。リノベーション前はストーブのあるあたりまでが和室で、窓際の部分は縁側だったのだそう。
窓から差し込む日の光と店内の柔らかい照明に照らされた床板、天井の梁から、建物の歴史が感じられました。
カフェの隣には販売スペース。こちらはもともとダンスホールでした。そう言われるだけで踊っている人が想像できてしまうのが百年の歴史なのでしょう。
飾られている物品は「Hammock2000」のカラフルなハンモックの他、北軽井沢で活動する地元のアーティスト、作家さんの作品で、洋館の雰囲気に合うものを選び、販売しています。
随所に光る「百年経たないと見られないもの」
この洋館には、百年経った建物だからこそ見られるものがたくさんあるのだそうです。そう説明してくれるのは、カフェスタッフの日月(たちもり)さん。
「階段の床板の長さを変えることで、階段全体がカーブして見えるようにつくられています」
確かに、右側に向かって緩くカーブして見えますね。これは柔らかい雰囲気を演出するための工夫です
一歩上るたびに響く「きしみ」がとても懐かしく感じられます。
「季節の変化による温度、湿度の差で階段の手すりがすこしずつ歪んできました」
私の両手でやっと一周掴めるような太い木の手すり。百年間の日々の温度変化が「生み出したもの」であり、そうそうお目にかかれるものではありません。
日月さん:「当時使われていた便器です。イギリスから輸入してきたもののようです」
私:「木の蓋に木の便座……。便座に暖房がなくても暖かそうですね」
カフェの2階で百年前の便器を見るなんて、想像もしていませんでした。毎日見る便器をここまで貴重に感じたのは人生初です。
訪れた時は「洋館回顧展」開催につき展示されていました。開催しているイベントによっては見られないこともあります。
洋館以上に品のあるカフェメニュー
洋館内を見学し、より一層貴重な空間であることを認識できました。その洋館で提供されているメシ……。いったいどんなものなのでしょう。
こちらが本日のメニュー。基本はサンドイッチとグラタンのセットの2種類。加えてマフィンのセットとドリンクがそろいます。
本日のサンドイッチセット(税込1,000円)はこちら。
サラミ、パン、野菜にかけてあるオリーブオイルはイタリア産のもの、野菜は地元のものを使用しています。
結構デカい! 何の策もなしにかぶりつくと口の中がパンの硬いところでこすれて痛くなりそうです。
切断してみるとこんな感じ。野菜の下のクリームチーズはしっかりと牛乳の味がして、サラミの味に負けずに優しく主張しています。
一番主張するのは黒コショウ。塩を使っていないので、その分粗びきにした黒コショウでアクセントを加えているのだそう。
かぶりついてもパンがすごく柔らかく「口の中がこすれて痛いかも…」という心配は無用でした。
こちらは本日のグラタンセット(税込1,200円)。一見のミートソースのグラタンですね。
このグラタンは「トマトキーマグラタン」。ミートソースではなくカレーです。
トマトの下には柔らかく茹でたマカロニが敷き詰められています。
食べてみると、カレーの辛さはほとんどなく、スパイスの香りが口に広がり、ホワイトソースの層も塩気の少ない薄味に仕上げています。子どもでも食べやすいよう、辛味をおさえて作っているのだとか。
見た感じ濃い味の印象ですが、あっさりした口触りで、食材の繊細な味わいを楽しめる一品です。
窓際の席で外を眺めながらカフェタイム。
ストーブの音と誰かが歩いて床がきしむ音が聞こえてくる……。
これはどう考えても東京にはない環境です。上質すぎる……!
カフェといえば読書。なんと無料の図書室が併設!
カフェの2階にはこのカフェを運営している社長が個人的に集めた本、寄贈された本が自由に読める「百年文庫」という図書室があります。
この環境で読書をすることが正解なのか……悲しいかな、都会のせわしない生活に揉まれてしまった私にはわかりません。体験してみましょう。
百年文庫の蔵書は1,500冊。旅行ガイドや人生についての本、絵本などが並びます。ゲラゲラ笑ったり、ドキドキしながら読める本というよりは、この環境に似た、深々とした、心の波風が鎮まるような落ち着いたテーマの本が多い印象です。
カフェで購入した飲料を持ち込んで飲むこともできます。
気持ちが完全に実業家になってしまいました。私の邸宅と勘違いしている自分がいます。
このシーンを彩るのはコーヒーだけではありません(私はコーヒーが苦手)。
これはオーガニックコーラ。人工甘味料、着色料、保存料を使用せず、カフェインもゼロの健康志向コーラです。
上質な環境に上質なコーラ。ふさわしい飲料とは思いませんか?
ふと窓に目をやると、双眼鏡がかけてありました。
ここでは読書だけでなく、バードウォッチングを楽しむことができます。一年を通してアカゲラ、キジ、シジュウカラが見られるのだそうです。
屋外でバードウォッチングをするには結構な森を分け進む必要があったり、雨に降られる心配があったりと大変ですが、ここではそんな心配は要りません。そもそも鳥が訪れる環境にカフェがあるのです。
「百年の洋館」で自身の百年を思う
かつてはこんな落書きが描かれ、怖そうなお兄さんのたまり場になっていた「百年の洋館」。軽井沢が舞台の小説では「お化け屋敷」として登場することもしばしばありました。
埋もれてしまった百年の歴史が今、カフェとして、地域の交流の場所として生まれ変わっています。百年この地を見守り続ける洋館で、自分自身が生きる過去から未来の百年を、ぼんやり考えてみてはいかがでしょうか。
お店情報
LUOMUの森 百年の洋館
住所:群馬県吾妻郡長野原町北軽井沢1984-43
電話番号:0279-84-1733
営業時間:10:00~17:00(季節によって変わります)
定休日:水曜日(季節によって変わります)
※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。
書いた人:毎川直也
風呂が好きで、風呂デューサーを名乗り活動中。銭湯、スーパー銭湯、温泉旅館での勤務経験を持ち、銭湯に勤めながらメディア出演をしている。酒が弱いうえに小食なため、「メシ通」には間違いなく向いていないライター。
ブログ:銭湯、温泉探求録
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