映画『たぶん』曖昧だけど普遍的「余白があるからこそ、その先に希望がある」YOASOBI×木原瑠生・小野莉奈インタビュー
若い世代を中心に爆発的な人気を誇っている“小説を音楽にするユニット”YOASOBI第四弾楽曲の原作小説「たぶん」(しなの 著)を原案としたオリジナルショートストーリーの映画が誕生、11月13日(金)より劇場公開されています。
映画『たぶん』は、3組の男女に訪れた別れと、それぞれが歩む新しい選択を描くショートストーリー作品。
大学生カップルで同棲をしていたが気持ちのズレを感じ、別れを選んだササノとカノン、夏の大会が自粛で中止となってしまった高校サッカー部員・川野とマネージャー・江口、そして社会人で恋人同士だがお互いの気持ちに応えられなくなっているクロとナリ。3組の男女の“最も切ない別れ”と“新しい一歩”の物語を主題歌となるYOASOBIの「たぶん」が切なく彩ります。
今回の映画化に「どんな風に広がっていくんだろう?」とワクワクしていたというYOASOBIのお二人と、ササノ役の木原瑠生さん、カノン役の小野莉奈さんにお話を伺いました。
友人との奇跡的な共演は、お互いが着実に頑張ってきた結果
――YOASOBIさんはちょうど10月で結成1周年となりましたが、現在の心境はいかがですか?
Ayase:1年あっという間だったし長かったし……という感じで。多くの方に聴いていただいている状況を僕らはあまり実感のないままここまで来ていたんですけど、いろんなお仕事が増えたりする中で、今振り返るとこの1年間でだいぶ見えるものや考えることが変わってきたなと思いますね。なかなか激動の1年間だったなと思います。
ikura:本当にこの1年は、1日1日があっとう間に過ぎて毎日「次の日のお仕事を頑張らなきゃ!」という感じでした。日々が本当に充実していて、すごく忙しさはあったんですけど、着実に一歩ずつ進んで積み上げていったという自信はあります。そう思えるのも、周りで支えてくださるスタッフさんとか、1つ1つの仕事で出会う人たちとのコミュニケーションや繋がりからなので、そういう部分では自分を大事にしてきて良かったなと思います。
――Ayaseさんの中で、変わってきた見えるものとは?
Ayase:シンプルに楽曲のことだけ考え続けてやってきた中で、楽曲以外のことや楽曲が広がることによる責任もそうだし、自分がどういうマインドでいたほうがいいのかな、と考えたりするようになりました。作曲者としてのAyaseとして考えるより、YOASOBIでやっていくアーティストのAyaseとしてどうしていかなきゃいけないか、みたいなことを考えられるようになった気がするので、この1年間で大人になったかもしれないですね(笑)。
――キャストのお二人は元々YOASOBIさんの楽曲にどのような印象を持っていましたか?
木原:僕が元々聴く音楽のジャンルがちょっと昔の曲が多くて。90年代まではいかないですけど、あまり最先端の音楽を追ってこなかったんです。それでも普段の生活の中でYOASOBIさんの楽曲を耳にすることは多かったので、映画の話を聞いたとき、とても嬉しかったです。
小野:私はikuraちゃんと中学3年生から同級生ということもあって、学生時代から“歌手と女優として一緒に共演できたらいいね”と夢を語り合っていて。それがあっていただいたお話だったので、本当に嬉しかったです。私自身「たぶん」という曲が出演が決まる前から好きだったので、だからこそ、小説だけでなく、楽曲の「たぶん」から感じる世界観を崩さないように、という責任感をすごく感じました。
――監督は小野さんがikuraさんとお友達だと知り「運命的」とおっしゃっていましたが、ikuraさん自身もキャストを聞いて驚いたのでは?
ikura:そうですね。決まったときは、「“いつか”と思っていたことが今決まるんだ!」と、タイミングといい、すごい奇跡的なものを感じました。でも、奇跡とは言いつつも、やっぱり2人が着実に頑張ってきた中の道の途中でこうやって重なることができたので、頑張ってきてよかったな、という思いと同時に、これからもまた2人で何か一緒にできることがあるように私達ももっと頑張らなきゃいけないな、と思いました。
曖昧だけど普遍的なもの「別れのお話ですが、その先に繋がるためのこと」
――では、「たぶん」の楽曲に込めた想いをお聞かせください。
Ayase:1つの“恋愛のお別れ”がテーマになっていて、原作の小説の中でも主人公の性別や人となりが不透明なまま進んでいくので、読む人それぞれでリンクできるポイントが違ったり、どんな人も自分に当てはめることができる良い余白が残っている小説だと思いました。それを楽曲でも上手く表現したいなと思った時に、歌詞の選び方、音の選び方ひとつでも、「たぶん」に関してはすごく浮遊感がある作品だと感じていて。
小説もずっとふわふわしている印象があって、そこもMVでは表現されているんですけど、目をつぶって見えていないものの聞こえてくる音だけで想像したり回想したりすることがメインになっているお話なので、そういう想像で物語が進んでいくという時点で、ちょっと宙に浮いた感じがあるというか。朝の青い感じと、ちょっと冷えた感じと、宙に浮いているような浮遊感みたいなものを音としては表現したいと思いました。
込めている想いとしては、「たぶん」という、すごく曖昧な言葉なんだけれども、その言葉に込められている意味みたいなものが、聴く人や観る人によって全然変わってくるものだからこそ面白いし、だからこそ曖昧かつ、ものすごく普遍的なものだなとも思います。なので、読む人や聴いてくれる人はその大衆的なものを目の当たりにすることによって、自分たちの生活とリンクさせて「じゃあ自分たちはどういう風になりたいのか」とか、「こういうことにならないようにはどうしたらいいのか」というところにまで辿り着ければそれはすごく素敵なんだろうし、そこまで経験がなくても、「こういうことが起こっていった先で自分がどうなるんだろうな」というのを常に想像しながら聞いてもらえる曲にしたいなという想いはありました。
――「たぶん」という言葉の“曖昧さ”が日本人らしい感覚の作品ですよね。
Ayase:「たぶん」と言っているから逆に希望があるというか、決めつけていない、余白があるからこそ、その先が感じられることだったり。別れのお話ですが、その先に繋がるためのことでもあるので、良い捉え方を出来たりもする。良い曖昧さだなと思います。
――キャストのお二人はササノとカノンをどう演じられたのでしょうか?
木原:僕たちの日常の中で感じている感情を、ササノとカノンの2人がどう感じているんだろう、と話し合いました。セリフ1つ1つも、「ここはこうやって言うんじゃないかな?」と話し合ったり。撮影では、その場の環境から受ける影響もある中で、自然と出てくるモヤモヤや自分たちの気持ちがあり、自然と作ることができました。普通のカップルにもあるような、お互い感じ取る自然な空気感が出ているのでは、と思います。
小野:映画では2人の出会いや仲の良かった時代などの背景が描かれていない中で、突然別れのシーンが始まるので、観た人がきちんとそれまで築いているであろう私達の関係を想像できるようにしたいなという思いがあって、2人で本読みをしたりして役を深めていきました。そこから出来た世界観はあるんじゃないかなと思います。
――原作小説にはない、気持ちをぶつけ合うシーンも描かれており、より深く2人の関係性が見えてきたなと思いました。
木原:僕はあのシーンは未だに自分で観ても、「ササノってこういう感じで言うんだ」みたいな、まだ少し曖昧な部分もあります。でもそういった曖昧さが「たぶん」なのかなと。
――小野さんは印象に残っていることはありますか?
小野:私は台本を読んで感じる気持ちと、現場に入って雨の中走るシーンがあったり、ササノに鍵を投げられて渡されるシーンがあったり、本当に実際に現場で演じてみないと感じられない気持ちが生まれるな、というのを改めて感じました。それは役者をする上ですごく面白いことだなと思いました。
曖昧にするとプライベートが厳選される!?
――では、「たぶん」という言葉の曖昧さにかけて、みなさんが普段「曖昧にしてしまうこと」や「曖昧だからこそ好きなもの」などありますか?
木原:僕、一つ「この気持ちどうしよう」というのがあるんですけど。電車に乗っているときに赤ちゃんを抱えている方が立っていたときに、人によっては立って抱いているほうが楽な方がいるらしいんですよ。僕も以前、席を譲ろうとしたら、「いや、立ってるほうが楽なんですよね」と言われた経験があって。でも席を譲ろうと1回立ち上がっちゃったから、もう座るわけにはいかないな、と思って立っていたら、その方が気を遣って座ってくださったんですけど、やっぱり座った途端に赤ちゃんが泣き出しちゃって……。そのことがあってから、赤ちゃんを抱いているお母さんを見かけても「この人はどっちのタイプだろう?」と悩むようになってしまって(苦笑)。
Ayase:曖昧ですね。
ikura:たしかに。
木原:相手の事情がわからないので、僕の中で曖昧なことです。
Ayase:僕は今めっちゃ頑張ってダイエットをしている“ふり”をしているんですけど(笑)、ダイエットの基準って本当に曖昧だなと思って。調べると、「今これが一番熱いダイエットだぜ!」って書いているものっていくらでもあるじゃないですか。糖質制限だ、カロリーがどうだとか、色々あるし、どれが自分に合うかもわからない。根本的に、“ちゃんと規則正しい生活をして異常なカロリーを摂取せずに運動すれば痩せるよ”ってそんなことはもうわかってるんですよ。ただ、有り難いことに忙しくさせていただいている中で、ちょっと簡単にできそうなことを調べても、どれが正解なのか本当に曖昧すぎて。一旦、僕はスタイリストさんに教えて貰った“十割蕎麦を食べ続ける”というダイエットをやっている“ふり”をしています。
小野:さっきUberEatsでロッテリアを注文したと話していましたもんね(笑)。
Ayase:絶品チーズバーガーを4つ食べました(笑)。絶品でした!
ikura:私は自分が曖昧にしていて嫌な部分があって。今、大学2年生で日中にオンライン授業を受けて、その後に仕事に行くという生活を「どっちも両立して頑張るぞ!」と1年生から続けているんですけど、やっぱり頑張りすぎるとガタがきちゃったりして、授業中に寝ちゃったりとか、自分の意志が曖昧になることが最近多くて。「今、何を優先したらいいんだろう?」「何のためにこの授業受けているんだっけ?」みたいな、そういうことを考えてしまって、自分の意志がゆらいで曖昧になってしまう自分が最近好きじゃないですね。
――まさに今、曖昧の真っ只中なんですね。
ikura:曖昧の真っ只中です(笑)。
小野:私は、“基本的に予定を入れない”という曖昧さが自分の良い環境を作っています。あまり仕事以外で、「週末は絶対にこの子と遊ぶ」とか、「家族とごはんに行く」とか決めたくなくて、その時の流れで行きたいタイプなんです。極力、決めた予定を入れないで、曖昧に生活するのが好きです。
ikura:本当に曖昧で、急に「今日ごはん行く?」とか電話がかかってきたりします。
小野:それある(笑)! だから、周りの方は大変かもしれないです。今じゃなきゃダメ!って、その時に話したいことってあるじゃないですか。そういうときは連絡しちゃうし、プライベートでも予定を決めることで自分を縛りたくないなというのがあるので、基本的にはあまり人と約束しないようにしています。
――そういうタイプの人いますよね(笑)。
Ayase:僕めっちゃわかります。予定を極力入れたくない。歯医者さんの予定とかはしょうがないんですけど、本当は入れたくないです(笑)。
小野:迷惑がかかっちゃうことがあるから(笑)。
Ayase:予定があると思って生活すると、すごく窮屈に感じる瞬間があるから、そのときの流れでやりたい、というのはあるけど、普通にすごく迷惑をかけるときがあるので、ダメだなと思います(笑)。
小野:すごくわかります。でも、おかげでプライベートがすごい厳選されるんです。本当に仲が良い子としか遊ばないし、約束したものはとても充実するので、厳選されて良いんですよね。
――映画は、作品全体を通して、とてもリアリティーのあるカップルたちが映し出されていると感じました。YOASOBIのお二人から観た感想を改めて教えてください。
ikura:3つのストーリーになることで、このありふれた生活や日々の中でのお別れとか、恋人ではなくても誰しもが通ってくるいろんな別れの中での切なさや儚さが「たぶん」という楽曲を通して、作品として広がっていって。ストーリーごとに使われていく「たぶん」も意味がすべて違っていて、1つ1つのストーリーの役者さんの表現の仕方がみなさん違ってめちゃくちゃ素晴らしくて、音楽を作る側としては、広げてもらえてとても幸せだなと思いました。
Ayase:3つの作品があって1つの「たぶん」という映画になっていて、どれもぶっ飛んだ話は1つもなくて。「たぶん」の楽曲の中にも「これも大衆的恋愛でしょ」というフレーズがあるんですけど、やっぱりあくまでも大衆的で、どこにでも起こっていることだし、誰しもが経験していてもおかしくないこと。その中で起こるリアルな切なさだったり別れだったり、それがどうしようもなく悲しかったり、悲しいだけじゃなかったり、モヤっとするんだけど、それでも日々続いていくんだよ、という、リアリティーのあるドラマ感というものを、そもそも曲ですごく表現したかったことが、実写の映画として上手に表現されていて、なんだかシンプルに感動しました。そして最後に「たぶん」が流れてきてすごくグッときたので、とてもフィットしているなと思いました。
――ありがとうございました!
映画『たぶん』は2020年11月13日(金)より上映中。
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動画:【映画『たぶん』予告映像(60秒ver.)】3組の男女が紡ぐ最も切ないショートストーリー
https://youtu.be/ZFzFapKazcs[YouTube]
STORY
【ササノとカノン】
大きな物音で目覚めるカノン。別れたササノが部屋を整理しに帰ってきていた。同棲を始めた時、「私たちは変わらない」そう思っていたのに些細なことで少しずつ“ズレ”を感じ、別れを選んだ二人。大学はオンライン授業になり、就職活動を控える中、将来を真剣に考えるカノンと楽観的なササノ。どうしてこうなったの?悪いのは彼なのか、私なのか。たぶん……。【川野と江口】
サッカー部の川野とマネージャーの江口はビデオ通話をしていた。今頃、最後の大会を迎えているはずだったが、今年は自粛により中止に。努力が報われないまま、憂鬱な受験の話をしていた。通話を切ると川野のラインにチームメイトから江口が東京へ引っ越すと知らされる。3年間チームと自分を支えてくれていた江口のことを思い、気づくと川野は自転車で走り出していたー。【クロとナリ】
インテリアデザイナーのナリは彼氏のクロとなかなか連絡が取れず、直接家を訪ねる。インターホンを押すとクロが出迎えるも、玄関にはヒールの靴が。アリサと名乗る女性は編集の仕事をするクロの元同僚。オススメのDVDを届けにきたという。クロのことが大好きなナリは動揺を隠せずその場で言い合いになってしまう。こんなにも好きなのに……。監督:Yuki Saito 脚本:岸本鮎佳 原案:しなの
出演:木原瑠生 小野莉奈 / 寄川歌太 吉田美月喜 /北林茉子 黒澤はるか・めがね 糸川耀士郎
主題歌:YOASOBI「たぶん」
企画・製作:ソニー・ミュージックエンタテインメント
制作プロダクション:and pictures
配 給:イオンエンターテイメント 宣 伝:スキップ
(C)ソニー・ミュージックエンタテインメント
公式サイト:https://monogatary.com/tabun_movie/[リンク]
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