【シネマ部】大泉洋主演『ぶどうのなみだ』鈴井亜由美さんインタビュー「ワインや野菜もキャストの一部」
2012年に公開された映画『しあわせのパン』の三島有紀子監督と主演の大泉洋さんが再タッグを組み、再び北海道を舞台に描いた『ぶどうのなみだ』が10月11日より全国ロードショーとなります。
『ぶどうのなみだ』は、大泉さんと染谷将太さん演じる年の離れた兄弟と、安藤裕子さん演じる旅人の心の触れ合いを描いた感動ドラマ。北海道・空知の豊かな自然の中で 「黒いダイヤ」と呼ばれるピノ・ノワールの醸造に挑む、心にじんわり染みる物語です。
本作の企画を務めるのは、CREATIVE OFFICE CUE代表取締役社長の鈴井亜由美さん。主演の大泉さんが所属する演劇ユニット「TEAM NACS」など、北海道を中心に活動する俳優・タレントの事務所をまとめながら、様々な映画・舞台のプロデュースを行っています。
「空知で作られたワインに魅せられた」事が本作を作るきっかけだったと話す鈴井さん。映画について、北海道について色々とお話を伺ってきました。
―『ぶどうのなみだ』制作のきっかけは、鈴井さんが空知のワインを飲み感動した事だったそうですね。
鈴井:私もともと道産のワインに美味しいイメージが無かったんですね。食用のぶどうで作っているので甘い印象があって。でも、2008年頃に、このお話の元になった空知にある「山﨑ワイナリー」のワインを飲んで、ものすごく感動して。翌週には一人で車を運転してワイナリーを尋ねて、ワイナリーの景色に心を動かされました。いつか家族をテーマに映画を作りたいなと思っていたところだったので山﨑家の皆さんとお話をして、取材をさせていただき、お話の構想が浮かんできました。
―では、この物語の中には山﨑ワイナリーの皆さんのキャラクターや関係性も反映されているのですね。
鈴井:アオ(大泉洋)というキャラクターは、ワイン用のぶどうを作るというチャレンジをした山﨑家のお父さんと、昔は「農家を継ぎたく無い」と反発していた次男のエピソードをかけ合わせました。その次男の方も今では一生懸命ぶどう作りに励んでいらっしゃいます。
逆に長男は、農業という家業を継ぐつもりで、親がワインをやるといったら東京農大で醸造の勉強をして前向きだったと伺いました。それはロク(染谷将太)のキャラクターなんですよね。そんな話を監督やプロデューサー陣に伝えて、話し合いながら物語を固めていきました。
―本当に映画的なご家族というか、素晴らしいですね。私はこの映画で空知がこういう街なんだと知り、とても興味が沸きました。
鈴井:空知はもともと炭坑の街で、閉山後、次第に若い人がどんどんいなくなった地域なんですね。だから『ぶどうのなみだ』の中でもかつての炭坑のエピソードも描いています。ピノ・ノワールって黒くて小さいぶどうなので“黒いダイヤ”と呼ぶ人もいるのですが、昔の空知の人たちにとって”黒いダイヤ”って石炭だったんですね。なんだか不思議なつながりを感じますよね。
空知の土壌も興味深く、一億年前の白亜紀のアンモナイトが出土するのですが、ピノ・ノワールが最も有名なフランスのブルゴーニュ地方でもアンモナイトが出土されるんですね。その共通点も面白かったです。ワインって水が一滴も入ってないぶどうだけで出来た物なので、その土地をダイレクトに表すとても面白いお酒だと改めて思いました。
―ワイン好きなら、映画を観ている間に何度かゴクリと喉がなりますね。安藤裕子さん演じるエリカというキャラクターも、空知の美しい自然とマッチしていて素敵でした。
鈴井:実はエリカのキャストについてはものすごく悩みました。突然、空知にフラっと現れたという雰囲気が欲しかったのでアジアの女優さんが良いかなぁと思っていたりもしたんですが、ある日美容室で手にとった雑誌に安藤裕子さんが載っていたんです。私はもともとアーティストとして安藤裕子さんが好きだったのですが、結婚と出産を経験されていて、その記事の力強さに「これだ!」と思い、気づいたら監督とプロデューサーに連絡していました。
―本業が女優さんじゃないからこその独特の雰囲気というか、存在感でしたね。
鈴井:大泉も、初めてあのような雰囲気の方とお会いしてすごく新鮮だったと言っていました。演技がほぼ初挑戦で分からない分、体当たりで来るので彼自身もとても刺激になった様です。
―染谷さんも最近クセ者の役が続いていたので、今回のキャラクターはかなり新鮮でした。
鈴井:そうですよね。でも監督には「私は絶対染谷くんを可愛く撮れる」って勝算があったみたいです。そこが三島力ですよね。大泉に関しても「大丈夫です、私は洋さんを絶対格好良く撮ってみせます」と言ってくれて、本当にその通り撮っていただいたので大変満足しています。
―大泉さん演じるアオは映画の最初から中盤までずっとムスーっとしていて、でもそれがエリカとの出会いや色々な出来事によって変わっていく、とても人間らしいキャラクターでした。
鈴井:人って絶対変われるし、変われる出会いやきっかけがあるという事を教えてくれる作品だと思います。人間どうしても自分が一人に思えてしまう瞬間ってあると思うんですが、絶対にそんな事は無く、知らないうちにたくさんの人に支えられているんですよね。この映画は、物作りや仕事と向き合うというテーマも持っていますが、そういうのが上手くできない人は世の中にいっぱいいると思うんです(笑)。例えば会社で働いている方なら、自分が今仕事出来ているのは部下や仲間や家族のおかげなんだって気付く事が大切だし、物作りをしている方ならなおさら人と人とのつながりが一番ですからね。
―映画を観たら、絶対に実際に空知に行ってみたくなりますね。
鈴井:ぜひ行っていただきたいです。映画に出て来る食べ物も全部地元の方が提供してくださったんですね。北海道は食料自給率200%というすごい地域なのですが、その影では地道に日々頑張って仕事してくださっている農家の方がいるんだという事に気付かされます。あとは、りりィさんが持っているカゴも、空知の白樺を使ったアーティストさんの作品です。ワインはもちろん、野菜や色々な食べ物や工芸品や、全てがキャストの一部だと思っていますので、ぜひ隅々まで注目してご覧になっていただきたいです。
―私も今から空知旅行の計画をたてようと思います。今日はどうもありがとうございました!
『ぶどうのなみだ』ストーリー
北海道の空知に暮らす、アオ(大泉洋)と一回り年の離れた弟のロク(染谷将太)。父親が遺したぶどうの木の傍でアオはワインをつくり、ロクは小麦を育てていた。黒いダイヤと称される葡萄ピノ・ノワールから醸造した理想のワインづくりに悪戦苦闘しているアオとそんな彼を見守るロクの前に、キャンピングカーに乗って旅をしているエリカ(安藤裕子)という女性が現れる。何とも言えぬ不思議な魅力を放つ彼女との交流が、兄弟の生活に新たな風を吹き込んで行く。
http://budo-namida.asmik-ace.co.jp/
(C)2014「ぶどうのなみだ」製作委員会