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Oct 16 2025

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松田凌×平埜生成×見津賢 江戸川乱歩の異質さと狂気「触れちゃいけない共感性」『RAMPO WORLD』映画『3つのグノシエンヌ』『蟲』『白昼夢』インタビュー

江戸川乱歩没後60周年記念作品『RAMPO WORLD』と題して乱歩作品を原案にした映画『3つのグノシエンヌ』、『蟲』、『白昼夢』より、主演を務めた松田凌さん、平埜生成さん、見津賢さんの撮り下ろしインタビューをお届けします。

今年2025年に本格推理小説や怪奇・幻想小説の祖として後世に名を残した作家・江戸川乱歩が7月28日で没後60年を迎えました。
この度、江戸川乱歩没後60周年記念作品『RAMPO WORLD』と題して乱歩の作品を原案に設定を現代に変え、オリジナル解釈を加えた『3つのグノシエンヌ』、『蟲』、『白昼夢』が完成!
 
『3つのグノシエンヌ』から10月3日(金)より連続でシネマート新宿、池袋シネマ・ロサほかにて順次公開中です。

3作品それぞれの主演を務めた松田凌さん、平埜生成さん、見津賢さんに、乱歩作品の魅力や見どころをお伺いしました。
 

「今の時代は情報も得るものもありふれすぎているからこそ、求めちゃうと思うんですよ、こういう本質的な部分を」

――今回参加が決まったときの心境や江戸川乱歩作品の思い出があればお聞かせください。

松田:直接ではないんですけど、江戸川乱歩という文豪をテーマにした作品に以前演劇で出たことがあります。その時に幼少期の江戸川乱歩を演じさせていただいて。
でも江戸川乱歩ではないんですけど、ファンタジー性の強い作品で、小林少年だった人が実は江戸川乱歩だったというのもあって、そういった作品に以前出演させていただいてたので、改めて今回乱歩没後60周年の企画ができたことで、何か縁(ゆかり)があるのかなと思いながら参加させていただくことになりました。

乱歩の人物像に関しては、いろんな方々が残す情報の中で皆共通としてその言葉を選ぶと思うんですけど、やはり文学界の中でも異端児ですよね。
そういったものが印象強くありますけど、やっぱり江戸川乱歩という人が残した作品を何作か拝読した上で、その魅力も自分にはすべて理解できているのかわからないけど、素敵だなと思う部分が多いので、その言葉もやはり彼にふさわしい異名なんじゃないかなと思います。

平埜:僕は、本をあまり読まない小学生で怖いものが苦手だったので、ずっと避けていたというか。
でも、落語をきっかけに江戸川乱歩を知りました。乱歩作品を原作にした落語の企画があって、それを聞きに行って面白いと思って、そこから読むようになったんです。
そして今回参加するにあたり色々調べたら、乱歩原作の作品が、こんなに映像化しているんだ!と初めて知って。
それぐらい人を惹きつけている作家さんなんだと、改めて気が引き締まりました。

見津:僕は『名探偵コナン』が大好きなんですけど、コナンが「江戸川コナン」と蘭に向けて名乗った時に後ろにある本という認識から始まって。
世の中に江戸川乱歩原作や原案の作品って本当にたくさんあって、自分が見ていたものも実は江戸川乱歩原案だったんだ!とかもあったし、僕が大好きな『名探偵コナン』も2024年に乱歩コラボとして江戸川乱歩邸に少年探偵団が行くという話があったりして。

こんなに現代の我々の世代まで少年漫画やアニメ作品にも影響を与えているって本当にすごいなと思うし、推理小説の先駆けというか巨匠であるなと感じています。

今回の3作品もそうですけど、ちょっと突飛なテーマもありますが、でも本当に伝えたいところは多分そこじゃなくて、人間臭さや人間らしさが本質のテーマになっているんだなという印象です。

――今回は推理モノではなくそれぞれのいびつな愛を描いた作品ですが、作品や演じる役柄について教えてください。

松田:『3つのグノシエンヌ』は、乱歩の作品で言うと『一人二役』というお話が元になっています。主人公が自分ではない男になすまして女性に迫るというものなんですけど、それを現代の形として監督やスタッフの皆さんが落とし込んでくださって生まれた作品です。

タイトルは音楽界の異端児と言われたエリック・サティの『グノシエンヌ』からきていて。文学界の異端児の江戸川乱歩と親和性が高くあるものだなと監督も思っていたみたいで、僕が演じた主人公は、その2人の異端を抽出したような男ではあると思います。

人というものは役を演じているのではないか、生きているってどういうことなんだ?と、そういった部分を感じていただいて、逆に皆さんにご説明していただけたら嬉しいです。

平埜:『蟲』は、どん詰まりの映画監督の青年が友人の紹介で出会った女性をきっかけに愛に向き合い、その中で少しずつ人間性を取り戻し、真人間になっていく——。ざっくりはそんな話なんですけど、乱歩原作であることや、平波亘監督の手腕もあって、ちょっと変態チックというか、その愛の向き合い方どうなの?という、ひと癖ある作品になっています。

主人公のことを最初は変な人かな?と思っていたんですけど、本読みを重ね、監督とも話して、普通の人だよね、という話でまとまりました。なので、映画に対する愛や、興味のあるものにひたむきな普通の人として演じました。でも、やっぱり何事も表裏一体というか。
愛の裏側にはいろんな感情がありますからね。そういうところを強調して描いた作品に仕上がっていると思います。

見津:『白昼夢』は、主人公が昔から“人の普段見せない部分を覗いた時に嬉しくなる”という病癖を持った人物で。「覗く」というところがテーマなんですけど、多分、見せたいのはその人間の性(さが)であったり、社会性を無視した時の本来の人間らしさみたいなところが、まさにこの作品のテーマになっていると思っています。

でも僕が演じた主人公は覗いて終わりなんですよ、その先がないというか。だから、何を目的としてやっているのか、というところが難しくて。覗いて記録していくということをずっとやり続ける、という作品なんです。

ただ、主人公はあまり社交性がなくて、コミュニケーションも取りづらいというか、人と関わるのが億劫な性格だから普段はおどおどしているんですけど、自分が自宅で覗いている時は、一番生き生きしていられる。
覗いている時が彼が一番人間らしい瞬間という役柄です。

――完成した映像を観た感想をお聞かせください。

松田:映画っていいなと思いました(笑)。自分で演じていたときと違う視点からの気づきもあったし、これは皆様の目と心にはどういう風に映るんだろう?とも思いましたね。

ただ、さっきお二方もおっしゃっていたように、乱歩作品っていろんな方が映画化や漫画にしてみたり作品が溢れていて。後世に残っていくものが色々あったとして、江戸川乱歩を我々なりに解釈を重ねて作品として生まれたものが、残っていくものであればいいなという期待も生まれました。

平埜:僕は「平波さん、なんてすごい作品を作ったんだ!」と思いました。他人事みたいな感じなんですけど、めちゃくちゃ美しかったので。
平波さんがこだわっていらっしゃったシーンも、これどういうことなんだろう?とか現場では思っていたんですけど(笑)、完成した作品を観ると「すげえ!」と思って。さすが!そういうことね!と腰を抜かしました。

映像で完成した時に納得がいく部分もありましたし、美しいなと思いましたし、この役を僕が演じることができて本当に良かったなと感じました。
主人公は好きな人の死体を愛でるような、個人的には共感できない役だったんですけど、完成した作品を観ると、そういう人もいるのかもな、と。演じている時以上の想像力をかき立てられました。

もちろん、これは絶対に賛否がある作品だと思うので、是非「否」の意見も聞いてみたいと思いましたね。どういう感想をいただけるのか、すごく楽しみになる映画だと思いました。

――でも、結構純粋な愛を感じますよね。映画監督としてちゃんと向き合っている愛情みたいなものがあって、肉体的な欲望だけじゃない愛を感じました。

平埜:ありがとうございます。その感想は好意的ですけど。
でも絶対に受け入れ難いと感じる方もいらっしゃると思うので、ぜひ皆さんがどう感じるのか話を聞いてみたいなと思いました。

見津:僕は、撮影で一番過酷だったシーンがあって。湖の上でボートに乗っているシーンがあるんですけど、撮影時期が冬だったんですよ。11月下旬で寒くて。本当に凍えて唇の色がなくなるぐらい。でも、暑い日でちょっと薄着という設定だったので過酷だったんです。

湖の上だから音を録るのも風が吹いたりで大変だったり、船が流れちゃって日陰に入っちゃうとか、いろんな大変なことがあって、モニターを見る機会はなかったんですよ。

でも、完成した作品を観たら、一番そのシーンが美しくて。こんなに綺麗に撮れていたんだ、頑張ってよかった!ってすごく感じました。なので、そのシーンを注目してほしいです(笑)。

――見津さんは他2作品もご覧になられたんですよね。
 
見津:
めちゃくちゃ面白かったです!
自分の作品の台本しか読んでいなかったので、『白昼夢』はコメディ要素がなかったというか、面白おかしい部分はあまりなかったと思うんですよ。
だから最初に『3つのグノシエンヌ』を観させていただいて、とても面白いと。
テンポ感や編集とか、松田さんと岩男海史さんの掛け合いとか本当に面白くて、結構爆笑しました。面白かったです、画作りとか編集とか。「止まれ」で止まるところあるじゃないですか。爆笑しました。
 
松田:ありがとうございます(笑)。
 
平埜:爆笑映画なんだ(笑)。
 
見津:いや、僕の見方が特殊なんだと思うんですけど、コメディ好きなので(笑)。ああいう要素が、至って本人たちは真面目なことをやってるんだけど、映像で見ると面白いみたいなところがすごい好きでした。
『蟲』は、最後の方の絵の具が混ざっていくシーンとかは、平波さんだなみたいな。アーティスティックというか、画が美しかった。

――3作品とも、とても面白いですよね。でも狂気じみているところは一貫しているなと感じました。
現代における乱歩作品との親和性のような部分、現代に通じていると思う部分はどんなところだと思いますか?

見津:今本当に作品の数が世の中に溢れているというか、いろんな人が創作をできる環境になって、それはネットの普及だったりもあると思うんですけど。そういう作家性みたいなものが色々増えてきた中で、今までそれこそ乱歩作品の特殊、異質とされてきた毛色みたいなものが、作品数があるから今は“異質なものを作っていく”といったムーブみたいなものとして増えてきているし、逆に今の時代だからこそ親和性が高いのかな、と。
そういう異質さが、現代は表現として受け入れられやすいという親和性は感じるかもしれないですね。

平埜:最近、現実の全てがフィクションみたいな世界観になっているなと思っていて。ニュースとか見ていて事件が起こるにしてもフィクションみたいな話が多いな、と。何が現実で何がフィクションなのか曖昧になっているような世界に突入していると思うんです。

乱歩の世界って、どちらかというと飛躍したフィクション性ある表現が多いはずなのに、今見たら、それが意外と「いや、こういうことあるよ」みたいな現実味を帯びている。その距離感の近さは過去よりも現代の方が伝わりやすいのではないでしょうか。

松田:狂気を孕ましているっていうのは、どんな方々でも生きている人たちは、色は違えど持っているなと思っているんですけど。
ただ、一般社会でどの時代も生きるにおいて、それを表立てるとそれこそ一線を超えてしまうことになるかもしれないし、人道を外れてしまうことになる。

だからこそ、作品上の中で求めれるというか。乱歩自身も自分の中に物語があって、それは多分誰にも描けないかもしれないけれど、でも触れちゃいけない共感性みたいなものを感じて作品に起こしているわけじゃないですか。
今の時代はそういう情報も得るものもありふれすぎているからこそ、求めちゃうと思うんですよ、こういう本質的な部分を。

江戸川乱歩ではないけれど、我々はまたこれが1つ作品として世の中に生み落とされると、パンドラの箱を開けるように、見ちゃいけないものなのかもしれないけれど、手を伸ばしたくなってしまう。
その中に、現実にはないけれど、でも昔から自分の心の中にはあったような、みたいなものが、今の世界の方が浮き彫りになる気がしていて。
そういったものは没後60周年企画として今っていう言葉には合っているんじゃないかなと思います。

 
――ありがとうございました!

【撮影:周二郎】

※Otajoとガジェット通信は姉妹サイトです。

関連記事:
「愛と変態というエンターテインメント」江戸川乱歩没後60周年記念『RAMPO WORLD』映画『3つのグノシエンヌ』『蟲』『白昼夢』魅力を松田凌らキャスト&監督が語る
https://otajo.jp/118632
 

「RAMPO WORLD」作品情報

<INTRODUCTION>
本格推理小説や怪奇・幻想小説の祖として後世に名を残した作家・江戸川乱歩。数々の推理小説を世に送り出す一方で、「人間椅子」「鏡地獄」など、怪奇、妄想、フェティシズム、狂気を滲ませた変格ものと称される作品も多く執筆している。今年没後60年を迎える江戸川乱歩の3作品を、「RAMPO WORLD」と題して長編映画化。晩秋の夜に、妖しくも美しい乱歩の世界へと誘う―。
公式X:@RAMPOWORLD https://x.com/RAMPOWORLD
公式Instagram:@rampoworld https://www.instagram.com/rampoworld/


・10.3(金)公開『3つのグノシエンヌ』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=cB6q6tm9UKU

作品名:『3つのグノシエンヌ』
公開表記:10月3日(金) シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ他ロードショー
監督・脚本・編集:ウエダアツシ
出演:松田凌 安野澄 岩男海史 前迫莉亜
岡本照磨 四家光葵 月石しのぶ 富樫 明 佐田川舞
原案:「一人二役」江戸川乱歩
(C)2025「3つのグノシエンヌ」パートナーズ
HP:gnossiennes-movie.com

<STORY>
小劇場の売れない役者・哲郎と、教師として働く妻・晴との仲は冷え切っていた。愛人の茉莉との逢瀬も、哲郎の欲望を満たすことは無かった。刺激に飢えた哲郎は、新たな舞台の脚本を進める中で、後輩役者の悠介にある話を持ち掛ける。それは、舞台の主役に抜擢することと引き換えに、悠介が架空の人物に成りすまし、晴を口説き落とすというものだった。哲郎はその様子を脚本のネタにしようとしていた。最初は気が進まなかった悠介だったが、晴と触れ合うにつれて芝居と現実の狭間で心が揺れ動いていく。一方で哲郎は、自分には見せない晴の素顔を見て激しく動揺するが―。


・10.17(金)公開『蟲』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=dvvyUUezTpo

作品名:『蟲』
公開表記:10月17日(金) シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ他ロードショー
監督・脚本:平波亘
出演:平埜生成 佐藤里菜 木口健太 北原帆夏 / 山田キヌヲ
細川佳央 橋野純平 中山求一郎
原案:「蟲」江戸川乱歩
(C)2025「蟲」パートナーズ
HP:mushi-movie.com

<STORY>
映画監督の柾木は、親の遺産を食い潰しながら引きこもり続けて10年になる。極端に人との接触を嫌う柾木を気に掛ける大学時代からの友人・池内は、刺激を与えようと小劇場の舞台へと連れ出すが、柾木は居酒屋で酒をあおりながら厳しい論評を繰り返すばかりだった。しかし、そこに出演女優の芙蓉が現れると、その反応が一変する。柾木の演技論を熱心に聞く芙蓉に心を動かされ、創作意欲が湧き出してきた柾木は、彼女を主役にした脚本を書き始める。その想いの空回りが、次第に狂気を孕んで、誰も想像だにしない歪んだ愛の物語を奏ではじめる―。


・10.31(金)公開『白昼夢』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=yZgaC2eKgZo

作品名:『白昼夢』
公開表記:10月31日(金) シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ他ロードショー
監督:山城達郎 脚本:川﨑龍太
出演:見津賢 上脇結友 宮田佳典 / ほたる 川瀬陽太
佐々江天真 月石しのぶ 前田龍平 田川恵美子 小川沙羅 小野寛幸 大迫一平
原案:「白昼夢」「湖畔亭事件」江戸川乱歩
(C)2025「白昼夢」パートナーズ
HP:hakuchumu-movie.com

<STORY>
塾講師の渡会には、誰にも言えないある病癖があった。それは、人前で決して見せることのない顔を覗き見た時、この上ない快感を得るというものだった。そんな渡会が済むマンションの階下に、真柄夫妻が越して来たのは今年の春のことだった。
渡会は、夫妻が済む部屋に覗き穴を作り、その生活を覗き見るのが日課となっていた。妻の華恵は大学の准教授となり出世する一方で、夫の太郎は非常勤講師として働いているようだが、夫婦仲は悪くないようだった。しかしある日、渡会がいつものように階下の様子を覗き見る中で、華恵の知らなかった太郎の秘密が明らかになる―。

【配給】アルバトロス・フィルム

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