急に調子こきはじめた男の口説き方(犬山紙子のイラストエッセイ)
先日Eちゃんというスレンダー美女と飲んだ。
クールビューティな見た目のEちゃんはメガネをかけて女教師のコスプレなんかやったらさぞ似合うと思う。
Eちゃんは私と同い年の30歳。まだであって会うのは3回目なので、2人で遊んでもっと仲良くなってやろうという魂胆である。仲良くなって、あわよくば殿方の一人や二人紹介してもらおうという下心も10%ほどあったりする。
Eちゃんは残念ながら負け美女ではないが(残念ながらっつーのもおかしいけど)、美女には変わりない。
ので、酒のつまみに最高な“変な口説き方してきた男の話”を聞いてみることに(美女は大概テッパンの口説かれ話を持ってるものである)。
それは3年前。
Eちゃん、とあるクラブに遊びに行ったそうな。
すると、上下グリーンのスーツを着た変な男がやたらと女たちにチヤホヤされていた。
顔も別にかっこよくないし、グリーンのスーツもキモイし、別にDJってわけでもないし、おっさんだし、なんでちやほやされてるんだろう? とEちゃん不思議に思うもスルーして、友達と合流。
踊るわけでもなく、友達と一緒にお酒を飲んでいた。
しかし、30分くらいして、グリーンの男がEちゃんのもとへやってきた。
一番綺麗な女の子が自分のところに来ないのが癪に障ったのだろうか。
「ねえ? 一緒に飲もう? ね?」
と上下グリーンが話しかけてくる。
オッサンの語尾を上げた話し方がキモイのを堪えていたら
「名前、なんていうの? 何の仕事してるの?」
と聞いてくる。
「Eです。仕事はアパレル系です」
と普通に返事をしたEちゃん(クラブだったら聞こえないフリしてシカトすればいいのに!)。
「へえ~Eちゃんって言うんだ~、へえ~、アパレル系なんだ~」
と上下グリーンは言うも、そこで会話が途切れる。
そのまま沈黙で気まずい空気が3分ほど流れるも、上下グリーンは話しかけるわけでもなく、Eちゃんのことをずっと見ている。
「この男は何がしたいんだ…………」
Eちゃん、呆れてどこかに行こうとしたら、上下グリーンがやっと話し出した。
「あ、俺、Dって言うんだ」
………………。
「あ、もしかして俺のこと知ってる?」
何を言ってるんだ……。
「いえ、知りません」
とEちゃんが言うと……、
「あーそっか~、そっちのタイプか~」
なんじゃそりゃ。
「人間は2つに分かれる。Dを知っているタイプと、Dを知らないタイプだ」
みたいな格言でもあるのだろうか。
「ごめんごめん、俺『○○』って本を書いた作者なんだ」
Eちゃん、それでもわからなかったらしい。
「あの、すいません、失礼ですがその本も知らないです」
とはっきり言ったら
「ははは、だから、そっちのタイプね」
とまたタイプうんぬん言い出した。
なるほど、本が売れてちょっとだけ有名になった男のようである。
それでみんなが自分を知っていると勘違いしてしまっているようだ。
最初近づいたものの、Eちゃんが名前を聞いてこないので、聞いてくるまでずっと待っていたのだろう。
で、聞かないままどこかに行かれそうになったから慌てて自分から名乗ったのだろう。
名乗っても更にEちゃんがわからなかったものだから、慌てて作品名を言ったのだろう。
それでもEちゃん知らないもんだから、そっちのタイプとかわけわかんないこと言って自分を守ったのだろう。
情けない奴である。
で、Eちゃん、このDがずっと話しかけてくるわけでもないのに、近くを付いてくるのが気持ち悪かったらしい。
1時間ほどでクラブを出た。
すると、Dもついてきた。
家までついてこられたらかなわん、とビシッと断ろうと思った瞬間。
「俺んち、六本木にあるんだけどこない?」
自慢げに六本木と言い放つD!!!!
噴き出しそうになるEちゃん!!!!!!
「すいません、私彼氏いるのでいかないです」
「ねえ、彼氏頭良いの?」
(急に何を聞くのこいつ……!)
と思ったけど、堪えて普通に返す。
「多分良いと思います」
「でも、絶対俺のほうが頭いいよ。だから家おいでよ」
(コイツ……話が通じない……!?)
「いえ、頭が良いからって家にはいかないです」
「彼氏有名な人?」
(むしろ斬新じゃね……?)
「いえ、一般人です」
「へえ……、俺のほうがいいと思うけど」
彼氏より俺のほうが頭が良いって言って口説くのどういう心理!???
しかも、想像で、自分のほうが頭良いって言ってるし…………。
Eちゃん、ちょっとおもしろくなってきてはいたけど、さすがに耐えられなくなったので、
「嫌です!!!!!!」
とはっきり言ってタクシーに乗り込んだ。
一緒に乗り込もうとするぐらいの勇気はなかったようでそのまま、なっさけない顔をしたまま、Dはその様子を見守っていたらしい。
最初から最後までダメダメなこのDの口説き方……。
きっと若い頃モテてこなかったのだろう。
けど、少し有名になって、やっとチヤホヤされ出してきて、勘違い。
それでこんなことになってしまったのだろう……。
自信はないのにプライドが高い。
口説きたいけど傷つくのは怖い。
そんなめんどくさい心理状況なのだろう。
天狗(てんぐ)にならないで、モテないころの気持ちのままいたら、むしろ好印象なのにもったいない。
スーツだって、きっと本が売れ出してから着たんだろうなあ…………。
六本木に住んだのもきっとそうなんだろうなあ…………。
で、今回、このDの話をEちゃんに聞いたわけだけど、こういう人結構いるよなあ、と私はちょっと思ったり。
別に本を出してる人じゃなくても、少し『Twitter』で人気になったり、DJをやるうちに急にジゴロみたいなキャラになったり、急なキャラチェンをしている男性、ちょくちょく見かけるのである。
なんだか非常にもったいない。
で、真逆の人もいた。
知り合いの売れっ子作家さんは、元プロボクサー。
「それ、アピールしたほうがモテるんじゃないの?」
と私が聞いたら
「自分でそんなこと言うより、周りから噂で流れてきたほうがかっこいいに決まってんじゃん」
と涼しい顔で言い放ったのである。
この計算高さにちょっとうなり、本当に頭いい人はこういうやり方するんだな、と私は思った次第であります。
みなさま、自慢したいこと、アピールしたいことは周りから伝わるようにしましょうぜ!!!